平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する。
「平行四辺形」という言葉は、第1巻の定義には登場しなかった。
定義に登場したのは「長斜方形」という言葉であり、それは、
「(四辺形のうち)対辺と対角が等しいが、等辺でなく角が直角でないもの」
と定義されていた。
これは、平行四辺形と結果的に同じものである。だが平行四辺形もこの定義だとすると、今回の命題は平行四辺形の定義そのものを言っていることになってしまう。どうやら「平行四辺形」と「長斜方形」は、定義が異なるようだ。
私は上記の記事で、「平行四辺形のことを長斜方形と書いてある」との旨を述べてしまったが、この解釈は間違っていたようだ(定義が違うだけで結果的に同じものであることは、ユークリッドも知っていただろう)。
『原論』における平行四辺形の定義は、「対辺が互いに平行な四辺形」だ。
四角形ΑΒΔΓがあり、ΑΒがΓΔに平行で、ΑΓもΒΔに平行だとする。このとき、四角形ΑΒΔΓを平行四辺形と呼ぶ。
では命題を証明しよう。まず対辺と対角が等しいことを示す。
ΒΓを対角線とすると、ΑΒはΓΔに平行であり、それらに線分ΒΓが交わっているので、錯角ΑΒΓ、ΒΓΔは互いに等しい*1。同様に、ΑΓはΒΔに平行であり、それらに線分ΒΓが交わっているので、錯角ΑΓΒ、ΓΒΔは互いに等しい*2。
ここで対角ΑΒΔとΔΓΑについて考えると、前者は二角ΑΒΓ、ΓΒΔの和であり、後者は二角ΒΓΔ、ΑΓΒの和なので、両者は互いに等しい。
次に二つの三角形ΑΒΓとΔΓΒに注目すると、これらはΒΓが共通なので、一辺とその両端が等しい三角形となる。ゆえに残りの角は残りの角に等しく、残りの二辺も残りの二辺にそれぞれ等しい。すなわち、対角ΓΑΒとΒΔΓは互いに等しく、二辺ΑΒ、ΑΓは、二辺ΔΓ、ΔΒにそれぞれ等しい*3。
よって、平行四辺形の対辺および対角は互いに等しい。
続けて、対角線が平行四辺形を二等分することを示そう(※)。
再び、二つの三角形ΑΒΓとΔΓΒに注目する。辺ΑΒは辺ΓΔに等しく、辺ΒΓは共通で、さらに角ΑΒΓは角ΔΓΒに等しいので、この二つの三角形は二辺とその間の角がそれぞれ等しい。ゆえに命題4より、二つの三角形は等しい*4。等しい二つの部分に分けられたので、これは二等分である。ゆえに対角線ΒΓは平行四辺形ΑΒΔΓを二等分する。
よって、平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する。これが証明すべきことであった。
ここでの「二等分」とは、「同じ形に分ける」という意味だと考えられる。同じ形なので、結果的に面積も同じことになる。
後半の(※)以降の証明は、必要だろうか?
前半で二つの三角形が合同であることを示しているので、改めて合同であることを示す必要はないはずだ。にもかかわらず証明しているのは、命題26「一辺両端角相等」と命題4「二辺夾角相等」の証明方法に違いがあるためだ。
命題4「二辺夾角相等」の証明では三角形同士が重なることを示したが、命題26「一辺両端角相等」の証明ではそのような証明はしなかった。
そして何より、命題4「二辺夾角相等」では「二つの三角形は等しい」と命題中に明記しているが、命題26「一辺両端角相等」ではその記述がない(ちなみに命題8「三辺相等」にも記述がない)。
理由はわからないが、ユークリッドはどうも「三角形が等しいことを言うためには、二辺夾角相等を言わないといけない」という姿勢を取っていたようだ。以前の記事で、「ユークリッドの時代は合同の概念が未確立だったらしい」と述べたが、今回の証明を読む限り、確かにそんな感じがする。
平行四辺形の対辺と対角が互いに等しいことが示せたので、
「平行四辺形ならば長斜方形」
が示せた。逆に、「長斜方形ならば平行四辺形」であることも容易に示せる。やってみよう。
長斜方形ΑΒΔΓの対角線ΒΓを引くと、対辺と対角が等しいことから、二つの三角形ΑΒΓ、ΔΓΒが合同であることが示せる(二辺夾角相等)。よって、二直線ΑΒ、ΓΔに一直線ΒΓが交わり、錯角ΑΒΓ、ΒΓΔを等しくしているので、対辺ΑΒ、ΓΔは互いに平行である。同様に、対辺ΑΓ、ΒΔが互いに平行であることも示せる。よって長斜方形ΑΒΔΓは平行四辺形である。これが証明すべきことであった。
厳密には、長斜方形は「対辺と対角が等しいが、等辺でなく角が直角でないもの」なので、平行四辺形とは少し違う。平行四辺形は等辺であってもよいし、直角であってもよい。ただし、等辺な平行四辺形は菱形、直角な平行四辺形は矩形、そして等辺かつ直角な平行四辺形は正方形と呼ばれる。
*1:命題29「一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい」
*2:命題29「一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい」
*3:命題26「もし二つの三角形において、二角が二角にそれぞれ等しく、一辺が一辺に、すなわち等しい二角に挟まれる辺かまたは等しい角の一つに対する辺が等しければ、残りの二辺も残りの二辺に等しく、残りの角も残りの角に等しいであろう」
*4:命題4「もし二つの三角形が二辺が二辺にそれぞれ等しく、その等しい二辺に挟まれる角が等しいならば、底辺は底辺に等しく、三角形は三角形に等しく、残りの二角は残りの二角に、すなわち等しい辺が対する角はそれぞれ等しいであろう」