与えられた円から与えられた直線角に等しい角を含む切片を切り取ること。
前回は与えられた弦と円周角から、それを含む切片を作図した。今回は、円と円周角が与えられるので、それを含む切片を切り出す作図である。
前回は長かったが、今回は短い。さくっとやってしまおう。
与えられた円ΑΒΓから、与えられた直線角Δに等しい角を含む切片を切り取ろう。
まず、点Βにおいて、円ΑΒΓの接線ΕΖを引く*1。そしてその接線上の点Βにおいて、角Δに等しい角ΖΒΓを作る*2。
(角Δ=角ΖΒΓ)
さてこうすると、接弦定理により、角ΖΒΓは反対側の切片ΒΑΓ内の角に等しい*3。
そして角ΖΒΓは角Δに等しかったので、切片ΒΑΓ内の角も角Δに等しい*4。
よって、与えられた円ΑΒΓから与えられた直線角Δに等しい角を含む切片ΒΑΓが切り取られた。これが作図すべきものであった。
あっという間に証明できてしまった。あまりにも短い。前回と違って場合分けをしていないので短いというのもある。
わざわざ円の接線を作図してから、接弦定理を利用して作図しているが、いきなり円内に角を作るわけにはいかないのだろうか。
点Βを通る適当な弦を引き、その弦の上に角Δに等しい角を作ればいいはずである。
(角Δ=角ΓΒΑ)
ところが、これはうまくいかない。上の例ではうまくいっているが、次のようになる可能性があるからだ。
どうなっているかと言うと、直線ΒΑが円に交わっていない。二点Β,Γの位置関係と角Δの大きさによっては、点Β上に作った角が円をはみ出してしまうのだ。
接弦定理を使う方法であればこうなることはなく、確実に求める切片を作図できる。
……ただし、角Δが二直角以上の場合は作図できない。円周角は二直角未満にしかなれないからである。
参考文献[4]によると、今回の命題の原文は以下の通り。
Απὸ τοῦ δοθέντος κύκλου τμῆμα ἀφελεῖν δεχόμενον γωνίαν ἴσην τῇ δοθείσῃ γωνίᾳ εὐθυγράμμῳ.
意味のまとまりごとに色分けすると、こんな感じだろうか。
最初のἈπὸは英語のfromなどに相当する単語である。属格を伴って、「〜から離れて」を意味する。
ἀφελεῖν「切り取ること」が今回のメインの動詞(元の形はἀφαιρέω)であり、何から何を切り取るかがその前後で説明されている。この動詞は、
ἀφαιρέω + 対角 + 属格(or与格)
という構文で、「対角を属格(or与格)から離す」という意味になるので、格を確認すると次の通りである。
前半の「与えられた円」が属格、次の「切片」が対角なので、円から切片を切り取るのだとわかる。
名詞τμῆμα「切片」と現在分詞δεχόμενον「受け入れる」がともに男性/単数/対格なので、「〜を受け入れるような切片を切り取る」と訳せば良いのだと思われる。
修飾語と被修飾語の間に関係ない不定詞が挟まっているが、こういう文法もあるのだろうか。文の解釈にいまいち自信がないが、同じ数/格の単語が関係し合うのは正しいはずなので、おそらく合っているだろう。
で、何を受け入れるかといえば、その後の青線部分で説明されるような角である。
「等しい角を」受け入れると訳せて、さらに何に等しいかが、その後の与格で説明されている。与格になるのは、ἴσην「等しい」(元の形はἴσος)が等しい対象を与格で説明するからである。
そういえば、切り取る「角」は単数形で書かれている。別に複数形でもいい気がするが、一度に切り取れる角が一個だけだから単数形なのだろうか。
前回とよく似た命題であるため、使われている単語や文法も前回と似ている。前回の原文はこんな文章だった。
こちらでは、τμῆμαとδεχόμενονが離れていない。また、今回はτμῆμαが単独で使われていたが、前回はκύκλου「円の」を伴っている。もし今回もκύκλουを伴うと、同じ単語が連続してしまうので、省略したのだろう。