もし線分が相等および不等な部分に分けられるならば、不等な部分の上の正方形の和は、もとの線分の半分の上の正方形と二つの区分点の間の線分上の正方形との和の二倍である。
命題5と6で、二等分した線分を、さらに二分または延長した場合できる矩形について論じた。
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今回の命題9と次回の命題10では、同じ条件のもと、できる正方形について論じる。
線分ΑΒを点Γで二等分し、点Δで任意に二分する。
このとき、ΑΔ上の正方形とΔΒ上の正方形の和は、ΑΓ上の正方形とΓΔ上の正方形との和の二倍であると主張している。
主張の仕方は、今までの命題とよく似ている。しかし証明の仕方は、今までとは少し趣を異にする。
まずは作図する。点Γから線分ΑΒに垂線を引き*1、そこからΑΓ、ΓΒの双方に等しい線分ΓΕを切り取る*2。そして、ΕΑ、ΕΒを結ぶ*3。
(ΓΕ⊥ΑΒ、ΓΕ=ΓΑ=ΓΒ)
次に、点Δを通りΓΕに平行な直線を引き*4、ΕΒとの交点をΖとする。
(ΔΖ // ΓΕ)
そして、点Ζを通りΑΒに平行な直線を引き*5、ΓΕとの交点をΗとする。最後にΑΖを結べば、作図は完了だ。
(ΗΖ // ΓΔ)
このようにすると、図中に直角二等辺三角形がいくつも現れる。次はそれを示そう。
まず三角形ΑΓΕに注目すると、二辺ΑΓ、ΓΕが互いに等しいので、角ΕΑΓは角ΑΕΓに等しい*6。そして角ΑΓΕは直角であるから、残りの二角ΕΑΓ、ΑΕΓの和は直角である*7。ゆえに、これらはともに半直角である。
同じ理由で、角ΕΒΓと角ΓΕΒも半直角である。そして角ΑΕΒ全体は直角である*8*9。
次に、上の小さい三角形ΕΗΖに注目しよう。
すると角ΕΗΖは、内対角ΕΓΒに等しいため、直角である(なぜなら、ΗΖはΓΒの平行線なので)*10。そして角ΗΕΖは半直角なので、残りの角ΕΖΗも半直角である*11。よって、二角が等しい三角形は二等辺三角形なので、辺ΕΗは辺ΗΖに等しい*12。
最後に、右下の三角形ΖΔΒに注目すると、ΔΖはΓΕに平行なので、角ΖΔΒは内対角ΕΓΒに等しく、直角である*13。また、角ΖΒΔが半直角であることは既に示したので、残りの角ΔΖΒも半直角である。ゆえに、二角が等しいので、辺ΒΔも辺ΖΔに等しい*14。
以上で、いくつかの直角二等辺三角形を発見できた。ここからは、それらの各辺上の正方形について考える。
まず、三角形ΑΓΕの二辺ΑΓ、ΓΕ上の正方形について考える。ΑΓはΓΕに等しいので、その上の正方形も互いに等しい。ゆえに、これらの和はΑΓ上の正方形の二倍である。
ところで、角ΑΓΕは直角であるから、ピタゴラスの定理より、この二つの正方形の和は、辺ΑΕ上の正方形に等しい*15。従って、ΑΕ上の正方形は、ΑΓ上の正方形の二倍に等しい*16。
次に、三角形ΗΖΕの二辺ΗΖ、ΗΕ上の正方形を考える。
辺ΗΖは辺ΗΕに等しいので、これらの上の正方形も互いに等しい。ゆえにこれらの和は、ΗΖ上の正方形の二倍である。
ところで、角ΕΗΖは直角であるから、ピタゴラスの定理より、この二つの正方形の和は、ΕΖ上の正方形に等しい。従って、ΕΖ上の正方形は、ΗΖ上の正方形の二倍に等しい*17。しかも、ΗΖはΓΔに等しいので*18、ΕΖ上の正方形は、ΓΔ上の正方形の二倍に等しい。
ここまでで、二線分ΑΕ、ΕΖ上の正方形の和は、二線分ΑΓ、ΓΔ上の正方形の和の二倍であることが分かった。今回の命題は、これがΑΔ、ΔΒ上の正方形の和に等しいと主張していたのだった。ゴールまであと少しだ。
角ΑΕΖは直角なので、ピタゴラスの定理より、二辺ΑΕ、ΕΖ上の正方形の和は辺ΑΖ上の正方形に等しい*19。すなわち、ΑΖ上の正方形は、ΑΓ、ΓΔ上の正方形の和の二倍に等しい。
そして、角ΔΓΗは直角なので、角ΓΔΖも直角である*20。よって三角形ΑΔΖに注目すると、ピタゴラスの定理より、ΑΖ上の正方形は、二辺ΑΔ、ΔΖ上の正方形の和に等しい*21。
そして、ΔΖはΔΒに等しいのだった。従ってその上の正方形も等しい。よってΑΔ、ΔΖ上の正方形の和は、ΑΔ、ΔΒ上の正方形の和に等しい。ゆえに、ΑΔ、ΔΒ上の正方形の和は、ΑΖ上の正方形に等しく、それはΑΓ、ΓΔ上の正方形の和の二倍に等しい。
よって、もし線分が相等および不等な部分に分けられるならば、不等な部分の上の正方形の和は、もとの線分の半分の上の正方形と二つの区分点の間の線分上の正方形との和の二倍である。これが証明すべきことであった。
やや複雑な証明であったが、理解できたであろうか。
証明は三つのステップに分かれていた。作図ステップ、直角を探すステップ、そしてピタゴラスの定理を活用して正方形の関係を調べるステップである。
証明のメインは最後のステップだ。そしてこのステップも、三つのステップに分解される。
ステップ1。ΑΓ、ΓΔ上の正方形の和の二倍は、ΑΕ、ΕΖ上の正方形の和に等しい。
ステップ2。ΑΕ、ΕΖ上の正方形の和は、ΑΖ上の正方形に等しい。
ステップ3。ΑΖ上の正方形は、ΑΔ、ΔΖ上の正方形に等しい。そしてΔΖはΔΒに等しいので、これはΑΔ、ΔΒ上の正方形に等しい。
ゆえに、ΑΓ、ΓΔ上の正方形の和の二倍は、ΑΔ、ΔΒ上の正方形の和に等しい。
冒頭で、今回の証明はこれまでの証明と少し趣が異なると述べた。その意味はわかっていただけだだろうか。
第2巻のこれまでの証明では、命題に登場する矩形や正方形が、すべて図中に現れていた。そして、まるでパズルのように、それぞれの図形が命題の言明通りに配置されていることを確かめていた。長々とした証明はついていたが、図を見れば証明はほとんど自明だったのだ。
ところが今回の証明では、図中に命題に登場する正方形が描かれていない。当ブログでは図をたくさん載せているが、『原論』に載っている図は次の一枚だけである。
たしかにこの図があれば、今回の命題を読むのには十分である。また今回の命題に限って言えば、命題中の正方形を図中に描いたところで、理解の助けになるかと言えば、全くそんなことない。そのため、正方形を描かなかったのだろう。
今回の証明では、ピタゴラスの定理が巧みに利用されていた。特に、適用する三角形を次々と変えることで、等しい正方形(の和)を次々と移していく展開は鳥肌ものだ。
……と、私は思うのだが、どうだろうか。
ピタゴラスの定理に、こんな使い方があるとは思いもよらなかった。辺を共有する直角三角形が複数あれば、辺を伝って三角形を渡り歩けるのだ。よくこんな証明方法に気が付いたものである。
今回の証明では、ピタゴラスの定理を使って、
- ΑΕ上の正方形は、ΑΓ上の正方形の二倍
- ΕΖ上の正方形は、ΓΔ上の正方形の二倍
と示していたが、これが途中から、
- ΑΕ、ΕΖ上の正方形の和は、ΑΓ、ΓΔ上の正方形の和の二倍
に変わっていた。各々の二倍の和は、各々の和の二倍に等しいことが、証明抜きに使われているのである。
また、等しい線分上の正方形は互いに等しいことも、証明抜きに使われていた。
これまでの記事でも何度か触れたが、『原論』ではこのように、ほとんど自明な事柄が証明抜きで使われる場合がある。
*1:命題1-11「与えられた直線にその上の与えられた点から直角に直線を引くこと」
*2:命題1-3「二つの不等な線分が与えられたとき、大きいものから小さいものに等しい線分を切り取ること」
*4:命題1-31「与えられた点を通り、与えられた直線に平行線を引くこと」
*5:命題1-31「与えられた点を通り、与えられた直線に平行線を引くこと」
*6:命題1-5「二等辺三角形の底辺の上にある角は互いに等しく、等しい辺が延長されるとき、底辺の下の角は互いに等しいであろう」
*7:命題1-32「すべての三角形において、一辺が延長されるとき、外角は二つの内対角の和に等しく、三角形の三つの内角の和は二直角に等しい」
*9:公理6「同じものの半分は互いに等しい」
*10:命題1-29「一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい」
*11:命題1-32「すべての三角形において、一辺が延長されるとき、外角は二つの内対角の和に等しく、三角形の三つの内角の和は二直角に等しい」
*12:命題1-6「もし三角形の二角が互いに等しければ、等しい角に対する辺も互いに等しいであろう」
*13:命題1-29「一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい」
*14:命題1-6「もし三角形の二角が互いに等しければ、等しい角に対する辺も互いに等しいであろう」
*15:命題1-47「直角三角形において、直角の対辺の上の正方形は直角を挟む二辺の上の正方形の和に等しい」
*16:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」
*17:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」
*18:命題1-34「平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する」
*19:命題1-47「直角三角形において、直角の対辺の上の正方形は直角を挟む二辺の上の正方形の和に等しい」
*20:命題1-29「一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい」
*21:命題1-47「直角三角形において、直角の対辺の上の正方形は直角を挟む二辺の上の正方形の和に等しい」