もし直線が円に接し、接点から接線に直角に直線が引かれるならば、円の中心は引かれた直線上にあるであろう。
前回の命題18では、中心から接線の接点に引いた直線は、接線に垂直になることを示した。今回はその逆、接点から引いた接線の垂線が中心を通ることを示す。
直線ΓΕが点Γにおいて、円ΑΒΓに接しているとする。このとき、点Γから垂線ΓΑを引くと、円の中心は直線ΓΑ上にある、というのが命題の主張である。
(ΔΕ⊥ΓΑ)
証明はかなりシンプルである。今回も、背理法を使おう。
中心が直線ΓΑ上にないと仮定する。であるならば、中心をΖとし、ΖΓを結ぼう*1。
さて、直線ΔΕは円ΑΒΓの接線であり、接点Γと中心Ζを結んだので、直線ΓΖは直線ΔΕに垂直である*2。つまり、角ΖΓΕは直角である。
ところが、角ΑΓΕも直角である。ゆえに、すべての直角は互いに等しいので、角ΖΓΕは角ΑΓΕに等しい*3。つまり、小さいものが大きいものに等しくなってしまうが、これは不可能である*4。したがって、点Ζは円ΑΒΓの中心ではない。同様にして、直線ΑΓ上以外のいかなる点も中心でないことが示せる。
よって、もし直線が円に接し、接点から接線に直角に直線が引かれるならば、円の中心は引かれた直線上にあるであろう。これが証明すべきことであった。
非常にシンプルな証明である。
無論、この証明では中心がΑΓ上にあることしかわからず、ΑΓ上のどこにあるかはわからない。
ところで今回の証明方法、実は第3巻命題1「円の中心の作図」に出てきた証明とほぼ同じである。
命題1では、こんな風にして円の中心Ζを作図した。
円を通る適当な直線ΑΒを引き、その中点Δを通る垂線ΓΕを引く。このとき、ΓΕの中点が円ΑΒΓの中心である。
そしてこのことは、次のように背理法で証明できる。
Ζ以外の点Ηが中心だと仮定する。ΗからΑ、Δ、Βへ直線を引き二つの三角形を作る。するとこの二つは、
ΗΑ=ΗΒ(∵点Ηは円の中心だから)
ΑΔ=ΔΒ(∵点ΔはΑΒの中点だから)
ΗΔ=ΗΔ
より二辺が二辺に、底辺が底辺にそれぞれ等しいので、底辺に対する角ΗΔΑ、ΗΔΒは互いに等しい*5。すなわち直線ΑΒ上の接角が等しいので、二角ΗΔΑ、ΗΔΒはともに直角である。
しかし、角ΖΔΒも直角である。ゆえに、すべての直角は互いに等しいので、角ΗΔΒは角ΗΔΒに等しい。しかしこれは不可能である。よって点Ηは円ΑΒΓの中心ではない。同様にして点Ζ以外のあらゆる点は中心ではないことが示せるので、点Ζは中心である。
最後の段落が、今回の命題19の証明の最後の部分と全く同じ論法である。
命題16から命題19まで、接線に関する命題が並んだ。ここで整理してみよう。
- 命題16「円の直径に、その端から直角に引かれた直線は、円の外部におちる。そしてこの直線と弧の間には他の直線は引かれない」
- 命題16系「円の直径に、その端から直角に引かれた直線は、円に接する」
- 命題17「円の接線の作図」
- 命題18「円の半径は接線に垂直」
- 命題19「接線に垂直な直線上に、円の中心がある」
注目したいのは、命題16系である。
命題17では、命題16系を利用して円の接線を引く。円周上に、なんとかして半径の垂線を引くのだ。
命題18、19は、命題16系の言い換えである。同値ではないが、同じことを見方を変えて述べていると言ってもいい。次のような関係になっていると言えようか。
- 命題16系「直径の垂線は接線」
- 命題18「直径は接線の垂線」
- 命題19「接線の垂線は直径」
(※短文化を優先し、正確な書き換えにはなっていない)
結局いずれも、以下の図で言えそうなことを述べているのである。
命題18と19は逆の関係であるが、命題16系と他の二つの関係はなんと呼べばいいのだろうか。やはり「言い換え」としか呼びようがないだろうか。『原論』では命題の逆は頻出するが、この手の言い換えは案外珍しいような気がする。