オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第2巻命題6 二等分および延長された線分上の矩形

もし線分が二等分され、任意の線分がそれと一直線を成して加えられるならば、加えられた線分を含んだ全体と加えられた線分とに囲まれた矩形ともとの線分の半分の上の正方形との和は、もとの線分の半分と加えられた線分とを合わせた線分上の正方形に等しい。

 

自然言語だけで数学をやることの難しさが、とてもよくわかる文章である。図とともにこの文章の意味を読み解こう。

f:id:kigurox:20180328170038p:plain

まず線分ΑΒがあり、これを点Γで二等分する。そしてここに、任意の線分ΒΔを、ΑΒと一直線を成すように付け加えよう。

f:id:kigurox:20180328170316p:plain

このとき、ΑΔ、ΒΔに囲まれた矩形と、ΒΓ上の正方形との和は、ΓΔ上の正方形に等しいと主張している。

f:id:kigurox:20180328171427p:plain

前回の命題5と、内容が似ている。実際、これらは対を成す命題だと考えられている。詳細は後回しにして、まずは証明を読もう。

 

線分ΓΔ上に正方形ΓΕΖΔを描き*1、対角線ΔΕを結ぶ*2

f:id:kigurox:20180328181832p:plain

点Βを通り線分ΓΕ(またはΔΖ)に平行な直線を引き*3、ΔΕとの交点をΘとする。

f:id:kigurox:20180328181841p:plain

そして点Θを通り線分ΑΔ(またはΕΖ)に平行な直線ΚΜを引き、点Αを通り線分ΔΜに平行な直線ΑΚを引く*4

f:id:kigurox:20180328181928p:plain

さてこのとき、線分ΑΓは線分ΓΒに等しいので、矩形ΑΛも矩形ΓΘに等しい*5。そして矩形ΓΘは矩形ΘΖに等しい(なぜなら補形なので)*6。ゆえに、矩形ΑΛも矩形ΘΖに等しい*7。双方に矩形ΓΜを加えれば、矩形ΑΜ全体グノーモーンΝΞΟに等しい*8

f:id:kigurox:20180328182833p:plain

ところで、辺ΔΜは辺ΒΔに等しいので*9、矩形ΑΜは矩形ΑΔ、ΔΒである。従ってグノーモーンΝΞΟも矩形ΑΔ、ΔΒに等しい*10

双方に正方形ΛΗを加えると、矩形ΑΔ、ΔΒと正方形ΛΗの和は、グノーモーンΝΞΟと正方形ΛΗの和に等しい*11。ところが、グノーモーンΝΞΟと正方形ΛΗの和は、ΓΔ上の正方形ΓΔΖΕである。さらに、正方形ΛΗは、線分ΓΒ上の正方形である*12*13。ゆえに、矩形ΑΔ、ΔΒと線分ΓΒ上の正方形との和は、ΓΔ上の正方形に等しい。

よって、もし線分が二等分され、任意の線分がそれと一直線を成して加えられるならば、加えられた線分を含んだ全体と加えられた線分とに囲まれた矩形ともとの線分の半分の上の正方形との和は、もとの線分の半分と加えられた線分とを合わせた線分上の正方形に等しい。これが証明すべきことであった。

 

証明の仕方も、前回とよく似ている。矩形ΑΜとグノーモーンΝΞΟが等しいことが示せるので、両者にΛΗを加えて命題を示した。両者が等しいことは、ΑΛ、ΓΘ、ΘΖがいずれも等しいことから導かれる。

 

さて冒頭で述べた通り、今回の命題6は、前回の命題5によく似ている。

stoixeia.hatenablog.com

二つの図を並べて比較してみよう。 

f:id:kigurox:20180329065920p:plain

左右の図で、線分ΑΒは等しくした。点ΓはΑΒの中点、点ΔはΑΒ上かその延長上の点である。

命題5は、矩形ΑΔ、ΔΒと、ΓΔ上の正方形の和が、ΓΒ上の正方形に等しいと述べている。
命題6は、矩形ΑΔ、ΔΒと、ΓΒ上の正方形の和が、ΓΔ上の正方形に等しいと述べている。

この図を見ると、この二つの命題は、要はΑΛがΔΖに等しいか、ΘΖに等しいかの、どちらになるかの問題であることがわかる。

さらに、この二つの図を重ねることができる。少しわかりにくいが、こうなる。


『原論』第2巻命題5,6

 

命題5と6は、ΔがΒのΓ側にあるか反対側にあるかで区別される。ΒとΔが重なるときは、ΑΛが潰れてなくなっている。ちなみに、ΔとΓが重なるときは、二つの等しい正方形ΑΛとΓΖになる。

 

幾何学代数学の立場で見れば、命題5も6も、ともに展開の公式
 (a+b)(a-b) = a^2-b^2
を表しているに過ぎない。

また命題6は、二数u,vの和pと積qが与えられたとき、この二数を求める問題と解釈することもできる。これは現代的に言えば、次の二次方程式
 x^2-px+q=0
を解くことに相当する。

だがこの解釈に無理があることは、前回の記事で述べた通りである。

前回の繰り返しになるが、この方程式の解は二線分ΑΒ、ΒΔになる。だが『原論』の説明通りにこの図を描くためには、先にΑΒ、ΒΔがわかっていなければならない。『原論』の説明を使って方程式を解くことは、不可能なのだ。

この二つの命題は、展開や方程式を考えるためのものではなく、線分とその中点があり、その線分上または延長上にもう一点追加されたとき、どのような矩形ができるかを考察したものだと、解釈すべきだろう。

ちなみに、命題9と10も、似たような命題を扱う。当時の人々にとって、よほど関心のある事柄だったのかもしれない。

 

 

*1:命題1-46「与えられた線分上に正方形を描くこと」

*2:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*3:命題1-31「与えられた点を通り、与えられた直線に平行線を引くこと」

*4:命題1-31「与えられた点を通り、与えられた直線に平行線を引くこと」

*5:命題1-36「等しい底辺の上にあり、かつ同じ平行線の間にある平行四辺形は互いに等しい」

*6:命題1-43「すべての平行四辺形において、対角線をはさむ二つの平行四辺形の補形は互いに等しい」

*7:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*8:公理2「等しいものに等しいものが加えられれば、全体は等しい」

*9:命題4系「正方形において、対角線を挟む平行四辺形は正方形である」

*10:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*11:公理2「等しいものに等しいものが加えられれば、全体は等しい」

*12:命題4系「正方形において、対角線を挟む平行四辺形は正方形である」

*13:命題1-34「平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する」