同じ底辺の上にあり、かつ同じ平行線の間にある三角形は互いに等しい。
前回までは、平行四辺形の等積変形を論じた。
stoixeia.hatenablog.com
stoixeia.hatenablog.com
今回からは、三角形の等積変形について論じていく。
図のように、同じ底辺ΒΓの上にあり、かつ同じ平行線ΑΔ、ΒΓの間にある二つの三角形ΑΒΓ、ΔΒΓについて考える。両者は(面積が)等しいことを証明しよう。
(ΑΔ // ΒΓ)
先にいくつか補助線を引く。まず、ΑΔを両方向に、Ε、Ζまで延長する*1。そしてΒを通りΓΑに平行にΒΕを、Γを通りΒΔに平行にΓΖを引こう*2。(※)
ここで二つの四角形ΕΒΓΑとΔΒΓΖに注目すると、これらはどちらも平行四辺形である。しかも、同じ底辺ΒΓの上にあり、同じ平行線ΒΓ、ΕΖの間にあるので、等しい*3。
さて、三角形ΑΒΓについて考えると、これは平行四辺形ΕΒΓΑの半分である。なぜなら、対角線ΑΒが、平行四辺形ΕΒΓΑを二等分しているからだ*4。
同様に、三角形ΔΒΓも、平行四辺形ΔΒΓΖの半分だ。なぜなら、対角線ΔΓが、平行四辺形ΔΒΓΖを二等分しているから*5。
二つの平行四辺形ΕΒΓΑとΔΒΓΖが互いに等しいので、それらの半分である二つの三角形ΑΒΓとΔΒΓも互いに等しい*6。
よって同じ底辺の上にあり、かつ同じ平行線の間にある三角形は互いに等しい。これが証明すべきことであった。
証明中に(※)を書いた。補助線を引くところの文章だ。
まず、ΑΔを両方向に、Ε、Ζまで延長する。そしてΒを通りΓΑに平行にΒΕを、Γを通りΒΔに平行にΓΖを引こう。
この文章に、違和感を覚えた人がいるかもしれない。これを現代風に書くと、たぶんこんな文章になるだろう。
Βを通りΓΑに平行な直線と、直線ΑΔとの交点をΕとする。Γを通りΒΔに平行な直線と、直線ΑΔとの交点をΖとする。
点の名前というのは、その点ができたときに付けることが多いだろう。 つまり、二直線が交わったときに命名するのだ。ところが『原論』の文章では、先に点に名前を付け、あとからその点を通る直線を描き、遡って点の定義とすることがある。
実はこれまでの命題にも、こういう書き方をしている個所はたくさんあった。私が現代風に書き直していただけだ。
今回だけ書き直さなかったのは、うまい文章を思いつかなかったからというのもあるのだが、「ΑΔを両方向に、Ε、Ζまで延長する」という部分がポイントかなと思ったからでもある。二つの三角形の取り方によっては、下図のように、ΑΔを延長せずとも交点が生じるのだ。
この場合でも、今回の証明はそのまま成立する。ユークリッドが敢えて「両方向に延長」したのは、二つの平行四辺形の辺ΔΖとΑΕが、重ならないようにするためだろう。このようにすると、命題35で登場した図と、同じ状態になるのだ。
(↑命題35の図)
(↑今回の図)
命題35の記事の中で私は、二つの平行四辺形が点Ηで交わらない場合は証明できていない、と書いた。この指摘自体は正しいのだが、できていなくても、今回の命題37を証明するのには支障がないのだ。もしかしたらユークリッドは、そこまで見越した上で命題35の証明を書いていたのかもしれない。
もしそうだとすると、ユークリッドの興味は命題そのものではなく、その命題を使って証明できる事柄にあったことになる。当然、その事柄を使ってさらに別の事柄を証明しようとも思っていただろう。だとすると、ユークリッドの興味は第1巻の最後に登場する命題「ピタゴラスの定理」の証明にあったということになる。彼はこれを証明するために、『原論』第1巻を書いたのだ。
……自分で書いておいてなんだが、これは眉唾物だ。信じるか信じないかは、あなた次第である。