もし一直線が二直線に交わって成す錯角が互いに等しければ、この二直線は互いに平行であろう。
前回までは三角形に関する命題を扱ったが、今回から平行線や平行四辺形に関する命題を扱っていく。
一発目は錯角についてだ。「錯角」という用語は今回が初登場である。なんと定義にも登場しなかった。以前にも少し触れたが、ユークリッドはあまりに一般的な単語は、定義し忘れていることがある。
意味は現代と同じである。二直線ΑΒ、ΓΔがあり、それらに第三の直線ΕΖが交わっているとする。
このとき、角ΑΕΖとΕΖΔを錯角と呼ぶ。今回の命題は、これらが等しければ二直線ΑΒ、ΓΔは平行だと主張している。
証明の前に、平行線の定義をおさらいしよう。『原論』における平行線の定義はこうだった(定義23)。
平行線とは、同一の平面上にあって、両方向に限りなく延長しても、いずれの方向においても互いに交わらない直線である。
二直線は交わるか交わらないかのどちらかであり、交われば平行ではなく、交わらなければ平行だ。
したがって二直線が平行であることを証明するためには、その二直線を両方向に限りなく延長しても、決して交わらないことを示せばよい。
(ちなみに『原論』では、「直線」「線分」「半直線」などの用語は、あまり厳密に区別されていない。当ブログでも、あまり区別せずに使っている)
では証明しよう。証明は背理法で行う。
もし平行でなければ、平行線の定義から、ΑΒとΓΔはどこかで交わるはずである。二直線が延長され*1、Β、Δの側の点Ηで交わるとしよう。
(角ΑΕΖ=角ΕΖΔ)
ここで三角形ΗΕΖに注目しよう。するとこれは、外角ΑΕΖが、内対角ΕΖΗに等しい三角形になってしまう。だが、これは不可能である*2。ゆえに、ΑΒ、ΓΔは、延長されてもΒ、Δの側で交わることはない。
同様に、Α、Γの側で交わらないことも証明できる。
ゆえに、二直線ΑΒ、ΓΔは、どちらの側でも交わらない。このような二直線は、定義から平行である。したがって、ΑΒはΓΔに平行である。
よってもし一直線が二直線に交わって成す錯角が互いに等しければ、この二直線は互いに平行であろう。 これが証明すべきことであった。
今回の証明に使った図だが、実は『原論』の物とは少し違う。 『原論』では、以下のような図を使っている。
点Β、Δの位置で、あからさまに曲げているのだ。別にこれでも何ら問題はないが、一見してわかりにくいかなと思って、図を変えた。
『原論』で先に三角形の命題を扱い、次に平行線の命題を扱う理由は色々あると思うが、そのうちの一つは今回の命題だろう。
「錯角が等しければ平行」という定理は今後もたびたび用いるが、その証明に「三角形の外角は内対角より大きい」という定理が必要だからだ。