第1巻命題16 三角形の外角は内対角より大きい
すべての三角形において、辺のひとつが延長されるとき、外角は内対角のいずれよりも大きい。
「三角形の外角は、それと隣り合わない二つの内角(内対角)の和に等しい」という定理を、我々は知っている。今回の命題は、これよりも弱い定理だ。
三角形ΑΒΓがあり、その一辺ΒΓがΔまで延長されたとする。このとき、角ΑΓΔは、内対角ΓΒΑ、ΒΑΓのいずれよりも大きいと言っている。
外角がこれらの和になることを知っていれば、この命題は当然である。実は『原論』にもその定理は出てくるのだが、なんと第1巻命題32にならないと登場しない。
しかし諸々の定理を証明するのに、この外角と内対角の関係はどうしても必要だ。そのため、ひとまずこの中途半端な命題が証明されるのだ。
証明のために、いくつか補助線を引こう。
まず、ΑΓの中点Εを作図し*1、ΒΕを結ぶ*2。
さらにΒΕを延長し*3、ΒΕ=ΕΖとなる点Ζをその直線上に取る*4。
そしてΖΓを結べば*5、準備は完了である。
(ΑΕ=ΕΓ、ΒΕ=ΕΖ)
さて、二つの三角形ΑΕΒとΓΕΖに注目すると、ΑΕ=ΕΓ、ΒΕ=ΕΖであり、しかも角ΑΕΒ=角ΓΕΖである*6。
したがって、この二つは二辺とその間の角がそれぞれ等しいので、合同である*7。ゆえに角ΒΑΕは角ΕΓΖに等しい。
ところで、角ΕΓΔは、角ΕΓΖより大きい。よって、角ΑΓΔは、角ΒΑΕより大きい。
同様に、ΒΓの中点を取り*8、ΑΓをΗまで延長すれば*9、角ΒΓΗが角ΑΒΓより大きいことを示せる。
角ΒΓΗと角ΑΓΔは等しい*10ので、角ΑΓΔも角ΑΒΓより大きい。
よってすべての三角形において、辺のひとつが延長されるとき、外角は内対角のいずれよりも大きい。これが証明すべきことであった。
冒頭でも述べた通り、この命題はのちのち上位互換が現れる。メラとメラゾーマのようなものだ。レベルの低いうちはメラで証明し、命題を倒していけばやがてメラゾーマが使えるようになる。
(2018/02/27追記)
この命題は、暗黙のうちに公理9「二直線は面積を囲まない」が使われている。直線ΒΖが、直線ΒΔと点Β以外で交わらないことが前提となっているからだ。この前提があって初めて、「角ΕΓΔは、角ΕΓΖより大きい」が言える(参考文献[3])。
ところで、球面の上で図形を描くと、二直線が面積を囲むこともある。球面上の直線は球面をぐるりと一周するので、必ず二点で交わるのだ。従って、今回の命題が成立しない場合がある。このような球面や双曲面上などでの幾何学のことを、非ユークリッド幾何学と呼ぶ(詳しいことはググってほしい)。
命題16は暗黙のうちに公理9を仮定しているので、命題16が絡む命題はすべて非ユークリッド幾何学では成立するとは限らない。それらのうち特に重要なのは、命題27「錯角が等しければ平行」だろう。これはその後命題31「平行線の作図」に利用される。命題31はすべての直線に最低一本平行線があることを保証しているので、これが否定されると、平行線が一切引けない世界ができあがる。そして実際、球面上では平行線が描けないことが知られている。先述の通り、どんな二直線も二点で交わるからだ。
ちなみに、公理9が使われる命題は他に、命題4「三角形の合同条件(二辺夾角相等)」や命題26「三角形の合同条件(一辺両端角相等)」がある。非ユークリッド幾何学では、これも成立するとは限らない。