ΣΤΟΙΧΕΙΑ -ストイケイア-

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは『原論』の原題「ΣΤΟΙΧΕΙΑ」より。

第1巻命題16 三角形の外角は内対角より大きい

すべての三角形において、辺のひとつが延長されるとき、外角は内対角のいずれよりも大きい。 

 

「三角形の外角は、それと隣り合わない二つの内角(内対角)の和に等しい」という定理を、我々は知っている。今回の命題は、これよりも弱い定理だ。

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三角形ΑΒΓがあり、その一辺ΒΓがΔまで延長されたとする。このとき、角ΑΓΔは、内対角ΓΒΑ、ΒΑΓのいずれよりも大きいと言っている。

外角がこれらの和になることを知っていれば、この命題は当然である。実は『原論』にもその定理は出てくるのだが、なんと第1巻命題32にならないと登場しない。

しかし諸々の定理を証明するのに、この外角と内対角の関係はどうしても必要だ。そのため、ひとまずこの中途半端な命題が証明されるのだ。

 

証明のために、いくつか補助線を引こう。

まず、ΑΓの中点Εを作図し*1、ΒΕを結ぶ*2
さらにΒΕを延長し*3、ΒΕ=ΕΖとなる点Ζをその直線上に取る*4
そしてΖΓを結べば*5、準備は完了である。

f:id:kigurox:20171116034109p:plain(ΑΕ=ΕΓ、ΒΕ=ΕΖ)

さて、二つの三角形ΑΕΒとΓΕΖに注目すると、ΑΕ=ΕΓ、ΒΕ=ΕΖであり、しかも角ΑΕΒ=角ΓΕΖである*6

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したがって、この二つは二辺とその間の角がそれぞれ等しいので、合同である*7。ゆえに角ΒΑΕは角ΕΓΖに等しい。

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ところで、角ΕΓΔは、角ΕΓΖより大きい。よって、角ΑΓΔは、角ΒΑΕより大きい。

同様に、ΒΓの中点を取り*8、ΑΓをΗまで延長すれば*9、角ΒΓΗが角ΑΒΓより大きいことを示せる。

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角ΒΓΗと角ΑΓΔは等しい*10ので、角ΑΓΔも角ΑΒΓより大きい。

よってすべての三角形において、辺のひとつが延長されるとき、外角は内対角のいずれよりも大きい。これが証明すべきことであった。

 

冒頭でも述べた通り、この命題はのちのち上位互換が現れる。メラとメラゾーマのようなものだ。レベルの低いうちはメラで証明し、命題を倒していけばやがてメラゾーマが使えるようになる。

 

(2018/02/27追記)

この命題は、暗黙のうちに公理9「二直線は面積を囲まない」が使われている。直線ΒΖが、直線ΒΔと点Β以外で交わらないことが前提となっているからだ。この前提があって初めて、「角ΕΓΔは、角ΕΓΖより大きい」が言える(参考文献[3])。

ところで、球面の上で図形を描くと、二直線が面積を囲むこともある。球面上の直線は球面をぐるりと一周するので、必ず二点で交わるのだ。従って、今回の命題が成立しない場合がある。このような球面や双曲面上などでの幾何学のことを、非ユークリッド幾何学と呼ぶ(詳しいことはググってほしい)。

命題16は暗黙のうちに公理9を仮定しているので、命題16が絡む命題はすべて非ユークリッド幾何学では成立するとは限らない。それらのうち特に重要なのは、命題27「錯角が等しければ平行」だろう。これはその後命題31「平行線の作図」に利用される。命題31はすべての直線に最低一本平行線があることを保証しているので、これが否定されると、平行線が一切引けない世界ができあがる。そして実際、球面上では平行線が描けないことが知られている。先述の通り、どんな二直線も二点で交わるからだ。

ちなみに、公理9が使われる命題は他に、命題4「三角形の合同条件(二辺夾角相等)」や命題26「三角形の合同条件(一辺両端角相等)」がある。非ユークリッド幾何学では、これも成立するとは限らない。

 

 

*1:命題10「与えられた線分を二等分すること」

*2:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*3:公準2「有限直線を連続して一直線に延長すること」

*4:命題3「二つの不等な線分が与えられたとき、大きいものから小さいものに等しい線分を切り取ること」

*5:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*6:命題15「もし二直線が互いに交わるならば、対頂角を互いに等しくする」

*7:命題4「もし二つの三角形が二辺が二辺にそれぞれ等しく、その等しい二辺に挟まれる角が等しいならば、底辺は底辺に等しく、三角形は三角形に等しく、残りの二角は残りの二角に、すなわち等しい辺が対する角はそれぞれ等しいであろう」

*8:命題10「与えられた線分を二等分すること」

*9:公準2「有限直線を連続して一直線に延長すること」

*10:命題15「もし二直線が互いに交わるならば、対頂角を互いに等しくする」