もし二つの円が互いに交わるならば、それらは同じ中心を持たないであろう。
まあ、そりゃそうだろう、という命題である。中心が同じ円、つまり同心円同士は、どう考えても交わらない。つまり交わるならば、同心円ではない。
直感的には明らかであるが、『原論』ではしっかりと証明する。当ブログで再三述べている通り、これこそが『原論』の魅力のひとつである。
証明は背理法で行う。
二円ΑΒΓとΓΔΗが、点Β、Γで交わっているとする。このとき、二円が同じ中心を持つと仮定し、その中心をΕとする。そしてΕΓを結び*1、任意にΕΖΗを引く。
すると、点Εは円ΑΒΓの中心なので、ΕΓはΕΖに等しい*2。また、点Εは円ΓΔΗの中心でもあるため、ΕΓはΕΗに等しい*3。
ともにΕΓに等しいので、ΕΖとΕΗは互いに等しい*4。従って小さいものが大きいものに等しくなるが、これは不可能である*5。ゆえに点Εは、二円ΑΒΓ、ΓΔΗの中心ではない。
よって、もし二つの円が互いに交わるならば、それらは同じ中心を持たない。これが証明すべきことであった。
シンプルな証明である。とはいえ、こんな当たり前なことでもきちんと証明できるという事実には、ちょっと感動する。
ところでこの証明をよく読むと、証明に利用される交点はひとつだけである。つまり、二円が交わる点の個数は、ひとつ以上ならいくつでもいいことになる。
実際、次回の命題6では、二円が接する(つまり交点がひとつ)ならば中心が異なることを、今回と全く同じ方法で証明する。なら命題5と6はひとまとめにしても良さそうだが、おそらくユークリッドは、「交わる」と「接する」は別物だととらえていたのだろう。
なお今回の証明では、二円は二点で交わることが仄めかされている。しかし、二円が二点でのみ交わることは、まだ証明されていない。そのことは、命題10で証明する。
ただし上述の通り、仮に二円が三点以上で交わったとしても、今回の証明にはなんら影響しない。
次回は「二円が接するならば、それらは同じ中心を持たない」ことを今回と全く同じ方法で証明するので、今回の復習がしたい人は、次のページを読む前に自力でこの命題を証明してみると良いだろう。いわゆる宿題である。