円に内接する四辺形の対角の和は二直角に等しい。
今回もまた、中学数学で習う有名な定理である。命題の意味も分かりやすい。証明も簡単である。
円ΑΒΓΔがあり、四角形ΑΒΓΔがそれに内接しているとする。このとき、対角の和は二直角に等しいことを示す。
まず、ΑΓ、ΒΔを結ぶ*1。
そして三角形ΑΒΓに注目する。三角形の内角の和は二直角に等しいので*2、三つの角ΓΑΒ、ΑΒΓ、ΒΓΑの和は二直角に等しい。
ここで、角ΓΑΒは角ΓΔΒに等しい。なぜなら同じ切片ΒΑΔΓ内にあるから*3。同様に、角ΑΓΒは角ΑΔΒに等しい。なぜなら同じ切片ΑΔΓΒ内にあるから*4。
ゆえに、角ΑΔΓ全体は、二角ΓΑΒ、ΑΓΒの和に等しい。
双方に角ΑΒΓを加えよう。すると、二角ΑΔΓ、ΑΒΓの和は、三角ΓΑΒ、ΑΓΒ、ΑΒΓの和に等しい*5。そして後者は二直角に等しい。したがって、二角ΑΔΓ、ΑΒΓの和も二直角に等しい*6。
同様にして、二角ΒΑΔ、ΔΓΒの和が二直角に等しいことも証明しうる。
よって、円に内接する四辺形の対角の和は二直角に等しい。これが証明すべきことであった。
要は、円周角の定理を使えば、四角形の対角の和が、三角形の内角の和に等しいことを示せる、という内容である。
文章で書かれるとわかりにくいが、図を見れば明らかであろう。私が中学のときも、同様の方法で習った記憶がある。
ところで冒頭の命題文で、私は「四辺形」という用語を使った。これは参考文献[1]の文章をそのまま写したためである。
参考文献[4]の原文では、この命題は次のように書かれている。
Τῶν ἐν τοῖς κύκλοις τετραπλεύρων αἱ ἀπεναντίον γωνίαι δυσὶν ὀρθαῖς ἴσαι εἰσίν.
太字にしたところが「四辺形」と訳されているところである。この単語は前半の τετρα が「4」を意味し、後半の πλεύρων が「辺」を意味している。合わせて四辺形となるわけだ。
では「四つの角」を意味する単語 τετράγωνον が「四角形」かというと、『原論』ではこの単語は「正方形」の意味で使われている。『原論』では、というか、ギリシャ語ではそういう意味で使うらしい。
ではギリシャ語で一般の四角形を何と言うのかというと、τετράπλευρο、つまり今回「四辺形」と訳されている単語がそれであるようだ。
ちなみに『原論』では、一般の四角形のうち、正方形や長方形などを除いたもの……つまり名前の付けられないような四角形のことをトラペジオ(τραπέζιο)と呼んでいる。ただしこの単語は、現代ギリシャ語では台形を意味するそうだ。
第1巻の定義の記事でもこの単語には触れたが、これを書いた当時は古典ギリシャ語に全く手を出していなかったのでこのような注釈は書けなかった。
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