オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第3巻命題10 二円の交点の個数

円は円と二つより多くの点で交わらない。

 

『原論』最初の命題で、二円が交点を持つことを無証明に利用していた。

stoixeia.hatenablog.com

代数学では二円が交点を持つことは証明が必要らしいが(詳しくは知らない)、『原論』では不要だと解釈されている。現代数学における円は「点の集合」だが、『原論』における円は線分だからである。

 

さて、第3巻は命題5と6が二円の関係、7から9が円と一点から引かれた線分の関係について論じていた。今回の命題10から13までは、再び二円の関係について論じる。

この不自然な並びから、命題7から9は後世の追記ではないか、とも言われているようだ。実際、命題7から9はのちの命題で利用されていないようだ。

 

前置きはここまでにして、今回の命題を見て行こう。二円が交わるとき、その交点は二つより多くならない、と言っている。

証明は背理法を使う。二円が二つより多くの交点を持つと仮定して、矛盾を導こう。

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二円ΑΒΓ、ΔΕΖが、二つより多くの点Β、Η、Ζ、Θで交わるとしよう。なお、ここでは四点で交わることになっているが、証明に利用するのはこのうち三点だけである。
(片方が明らかに円ではないが、こうでもしないと図が描けないのでこれで勘弁してほしい。ちなみに両方とも円ではない)

ΒΘ、ΒΗを結び*1、それぞれを点Κ、Λで二等分しよう*2

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そして、Κ、Λから、線分ΒΘ、ΒΗに垂直にΚΓ、ΛΜを引き*3、それを点Α、Εまで延長しよう*4

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このようにして、円ΑΒΓに注目する。すると、弦ΑΓが弦ΒΘを垂直に二等分しているので、円ΑΒΓの中心は弦ΑΓ上にある*5。同様に、弦ΝΞが弦ΒΗを垂直に二等分しているので、円ΑΒΓの中心は弦ΝΞ上にある。

以上から、円ΑΒΓの中心は弦ΑΓ上かつ弦ΝΞ上にあるが、これらは点Ο以外の点では交わらない。ゆえに、点Οは円ΑΒΓの中心である。

同様にして、点Οが円ΔΕΖの中心であることも示せる。ゆえに、互いに交わる二円ΑΒΓ、ΔΕΖが、同じ中心Οを持つことになる。だが、これは不可能である*6

よって、円は円と二つより多くの点で交わらない。これが証明すべきことであった。

 

 

証明中にも書いた通り、図では四点で交わっているが、証明に使うのは三点だけである。二円が三点以上で交われば、今回の証明と同じことが言えるので、二円が三点以上で交わることはないと言える。

 


 

当ブログでは一切紹介していないが、『原論』の命題には、別証明が付されたものも多い。今回の命題にも、別証明があるそうだ。この別証明は、ヘロンによって追記されたものだと考えられている。

そして前回の命題9は、今回の命題の別証明に利用されている。しかしこれ以降、命題9を利用する命題は登場しない。前述の通り、このことから、命題9は後世の(ヘロンの?)追記だと考えられているようである。 

 


 

今回の証明では、円の中心が記号Οで書かれていた。現代では円の中心をローマ字のOで書くことが多いが、これはユークリッドの時代からの慣習なのだろうか。

……と考えたくなるが、そうではなく、これはただの偶然である。ΟはΞの次のアルファベットなのだ。これまでの命題でも、円の中心を表す記号はΖだったりΕだったりと、統一されていない。

『原論』では、点の名前は証明に登場する順番に、機械的につけられる。そのため、ほぼ同じ図であっても、命題によって点の名前が異なる場合が多い(これは第2巻の命題に顕著である)。

現代のように、特定のものを表す記号が統一されるようになったのは、いつ頃なのだろう。少しだけ気になったので、有名どころをぱらぱらとめくってみた。

デカルトの『幾何学』(1637年)では『原論』と同様、順番に記号を振っており、特定のものを表す記号はなさそうである。しかも、ページをまたいでも順番に振っている箇所まである。

ガリレオの『天文対話』(1632年)でも、円の中心がAだったりCだったりして、統一されていない。しかしどういうわけか、太陽を中心に描いた図だけは、中心をOで表している。

ニュートンの『プリンキピア』(1687年)では、(持っていないのでネットで画像検索しただけだが)円の中心がC、楕円などの焦点がSとHで統一されているように見える。もしかしたら、このあたりの時代から固まっていったのかもしれない。

(適当に書いているので信じないように)

この辺のことを詳しく調べた論文も、探せば見つかりそうではある。

 

 

*1:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*2:命題1-10「与えられた線分を二等分すること」

*3:命題1-11「与えられた直線にその上の与えられた点から直角に直線を引くこと」

*4:公準2「有限直線を連続して一直線に延長すること」

*5:命題3-1系「もし円において直線が直線を直角に二等分するならば、円の中心は二等分線上にある」

*6:命題3-5「もし二つの円が互いに交わるならば、それらは同じ中心を持たないであろう」