オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第3巻命題9 等しい線分を引ける円の内部の点

もし円の内部に一点がとられ、その点から円に二つより多い等しい線分が引かれるならば、とられた点は円の中心である。 

 

前々回、円の内部に取った点から円周上に引いた線分について、議論した。

stoixeia.hatenablog.com

今回も、円の内部に点を取り、そこから円周上に点を引く。そして、その線分が等しいとき、その点は円の中心であると主張している。

早速証明しよう。

f:id:kigurox:20180911221300p:plain(ΔΑ=ΔΒ=ΔΓ)

円ΑΒΓがあり、点Δをその内部の点とする。そして、点Δから円ΑΒΓに二つより多い等しい線分ΔΑ、ΔΒ、ΔΓが引かれたとする。このとき、点Δが円ΑΒΓの中心であることを示す。

まず、ΑΒ、ΒΓを結び*1、それらをΕ、Ζで二等分する*2

f:id:kigurox:20180911221659p:plain(ΑΕ=ΕΒ、ΒΖ=ΖΓ)

そしてΕΔ、ΖΔを結び*3、それらを点Η、Κ、Θ、Λまで延長したとする*4

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ここで、二つの三角形ΑΔΕ、ΒΔΕに注目しよう。するとこれらは、辺ΑΕが辺ΒΕに等しく、辺ΕΔが共通である。そして、底辺ΑΔも底辺ΒΔに等しい。よって三辺が等しいので、二つの三角形ΑΔΕ、ΒΔΕは合同である。ゆえに、角ΑΕΔは角ΒΕΔに等しい*5

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直線ΑΒの上に直線ΕΔが立てられ、接角ΑΕΔ、ΒΕΔが等しくされているので、この接角は双方とも直角である*6。したがって直線ΗΚは、直線ΑΒを直角に二等分している。

円において、直線が直線を直角に二等分するならば、円の中心は分割する直線上にある。ゆえに、円の中心は直線ΗΚ上にある*7

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同様に、円ΑΒΓの中心が直線Λθ上にあることも示せる。したがって、円ΑΒΓの中心はΗΚとΘΛの交点上にあるが、この二直線は点Δ以外では交わらない*8。従って、点Δは円ΑΒΓの中心である。

よって、もし円の内部の一点がとられ、その点から円に二つより多い等しい線分が引かれるならば、とられた点は円の中心である。これが証明すべきことであった。

 

 

「点Δから円周上に引いた線分が等しいとき、点Δは円の中心である」を示すのに、点Δそのものには注目せず、円周上の三点Α、Β、Γに注目するのは、なかなかアクロバティックな考え方だ。

しかも、「どのような点が円の中心たりえるか?」を考え、その条件を満たす点が点Δしかないことを示すことで、点Δが円の中心であることを述べるのである。結構、高度なことをしている気がする。中学生に理解させろと言われたら、わりと難しいかもしれない。

 


 

高校で、三角形の外心というものを習う。与えられた三角形の外接円の中心だ。これは、二辺の垂直二等分線の交点として作図できる。

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(ΑΕ=ΒΕ、ΑΒ⊥ΕΔ、ΒΛ=ΓΛ、ΒΓ⊥ΛΔ)

点Δを中心とし、頂点Α、Β、Γを通る円が作図可能なことを示そう。補助線として、交点から各頂点へ線分を結ぶ。

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こうすると、二つの三角形ΑΕΔとΒΕΔが合同(二辺夾角相等)になるので、辺ΑΔが辺ΒΔに等しい。同様に、二つの三角形ΒΛΔとΓΛΔも合同なので、辺ΒΔが辺ΓΔに等しい。ゆえに、辺ΑΔも辺ΓΔに等しい。

以上から、三線分ΑΔ、ΒΔ、ΓΔは互いに等しい。よって、中心Δ、半径ΑΔの円は、頂点Βを通る。なぜなら、もし通らないとすると、この円は線分ΔΒ上か、ΔΒの延長上を通る。線分ΔΒ上を通るとして、その点をΜとしよう。

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すると、線分ΔΑは線分ΔΜに等しい(なぜなら半径だから)。しかしΔΒにも等しい。ゆえにΔΜはΔΒに、すなわち小さいものが大きいものに等しくなる。これは不可能である。同様に、ΔΒの延長上を通ることも不可能である。よって、この円は点Βを通る。

同様に、点Γを通ることも示せる。よって、点Δは、三頂点Α、Β、Γを通る円の中心である。

 

最後に少し回りくどいことをしてしまったが*9、これで三角形の二辺の垂直二等分線の交点は外心であることが示せた。

言うまでもなく、この証明の方針は、今回の命題の証明と同じである。ただし、前提条件が違うため、若干の差異が生まれた。

二つの図を見比べてみよう。

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どちらの図でも、 点Δは円ΑΒΓの中心であり、三角形ΑΒΓの外心である。ただし、左図は先に円があり、右図は先に三角形がある。

 


 

前回、前々回の記事で軽く触れたが、今回の命題9は『原論』のあとの命題にほぼ登場しない。唯一の登場は、次の命題10の別証明である。

当ブログでは扱っていないが、『原論』には別証明がつけられた命題が多くある。しかしそれらの別証明はすべて、後世の追記だと考えられている。従って、この命題9も後世の追記である可能性が高いのだ。

また、命題7は今回の命題9の別証明に利用されるのみであり、命題8に至っては全く利用されない。単に命題7の対として追加された可能性がある。

ただし、命題8は今回の命題9で暗に利用されていると解釈することも可能だ。前回の命題8を再掲しよう。ただし長いので必要な部分だけである。

第3巻命題8

もし円の外部に一点がとられ、その点から円周にいくつかの線分が引かれ、そのうち一つは中心を通り他は任意であるとすれば……その点から円周にただ二つの等しい線分が最も小さい線分の両側に引かれるであろう。

 ここで“ただ二つの”と書かれている。ところで、今回の命題9はこうであった。

第3巻命題9

もし円の内部に一点がとられ、その点から 円に二つより多い等しい線分が引かれるならば、とられた点は円の中心である。

 つまり、命題9は円に二つより多い等しい線分を引くことを要求しているが、命題8から、そのような点は円の内部にしかないことが言えるのだ。

とはいえ、命題9は「もし円の内部に一点がとられ」から始まっているので、やはり命題8は命題9の証明には不要であろう。命題7の対として書かれただけと考えるべきである。

 

命題7から9まで、点から円周上に線分を引いた場合について議論してきた。次の命題10から命題13までは、二円の関係について議論する。

ところで、命題5と6も、二円の関係について議論していた。5、6、10、11、12、13が二円の関係について議論するので、やはり間に挟まれた命題7から9は後世の追記と考えられそうだ。

 

 

*1:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*2:命題1-10「与えられた線分を二等分すること」

*3:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*4:公準2「有限直線を連続して一直線に延長すること」

*5:命題1-8「もし二つの三角形において二辺が二辺にそれぞれ等しく、底辺も底辺に等しければ、等しい辺に挟まれた角もまた等しいであろう」

*6:定義1-10「直線が直線の上に立てられて接角を互いに等しくするとき、等しい角の双方は直角であり、 上に立つ直線はその下の直線に対して垂線と呼ばれる」

*7:命題3-1系「もし円において直線が直線を直角に二等分するならば、円の中心は二等分線上にある」

*8:公理9「二線分は面積を囲まない」

*9:三線分ΑΔ、ΒΔ、ΓΔが互いに等しことから、即座に点Δが円ΑΒΓの中心であると述べてよいのかどうか、判断がつかなかったのだ