もし円において中心を通らない弦が互いに交わるならば、互いに二等分しない。
前回は、「中心を通る弦が、中心を通らない弦に直角に交わるならば、後者を二等分する」という内容だった。
今回は、双方とも中心を通らない場合の話である。双方が中心を通らないならば、双方がともに二等分されることはないと主張している。
証明は背理法で行う。円ΑΒΓΔにおいて、中心を通らない二つの弦ΑΓ、ΒΔが、中心でない点Εで交わっているとする。このとき、点Εが、二つの弦ΑΓ、ΒΔをともに二等分していると仮定する。
すると、中心を通る線分ΖΕが、中心を通らない弦ΑΓを二等分するから、それをまた直角に切る*3。すなわち、角ΖΕΑは直角である。
同様に、線分ΖΕは弦ΒΔも二等分するから、やはりそれを直角に切る*4。すなわち、角ΖΕΒは直角である。
すべての直角は互いに等しいので*5、角ΖΕΑは角ΖΕΒに等しい。すなわち、小さいものが大きいものに等しい*6。しかしこれは不可能である。ゆえに、ΑΓ、ΒΔは互いに二等分しない。
よって、もし円において中心を通らない二つの弦が互いに交わるならば、互いに二等分しない。
あっさりとした証明である。
なお、今回の命題は「互いに二等分しない」と言っているので、片方なら二等分するかもしれない。実際、弦の位置をうまくとれば、二等分できる。
(ΒΕ=ΕΔ)
しかし、二本の弦を同時に二等分はできない、というのが今回の主張である。
今回の命題は「互いに二等分しない」という否定の形の命題であった。ちゃんと調べたわけではないが、『原論』では珍しいタイプの命題ではなかろうか。これまでのところでは、第1巻命題7のみが否定形の命題である。
今回の命題は、どのように使えるのであろうか。否定の形の命題であるから、背理法を使う場面で利用されたのだろうか?
参考文献[3]第1巻286頁には、この命題について次のように書かれている。
命題3は繰り返し利用されるが、命題4は『原論』で利用例がなく、その意義は不明である。
残念な話である。