オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第3巻 定義

  1. 等しい二円とは、その直径が等しいかまたはその半径が等しいものである。
  2. 円と会し延長されて円を切らない直線は、円に接すると言われる。
  3. 相会し相交わらない円は相接すると言われる。
  4. 円において弦は、中心からそれらに下ろす垂線が等しいとき、中心から等距離にあると言われる。
  5. 大きい垂線が下ろされる弦は、大きい距離にあると言われる。
  6. 円の切片とは、弦と弧に囲まれた図形である。
  7. 切片の角とは、弦と弧とに挟まれた角である。
  8. 切片内の角とは、切片の弧の上に一点がとられ、それから切片の底辺を成す弦の両端に線分が結ばれるとき、結ばれた二線分に挟まれた角である。
  9. この切片内の角を挟む二線分が弧を切り取るとき、角は弧の上に立つと言われる。
  10. 円の扇形とは、円の中心において角が作られるとき、角を挟む二線分とそれによって切り取られる弧とに囲まれた図形である。
  11. 二円の相似な切片とは、等しい角を含む、すなわち切片内の角が互いに等しいものである。

 

第1巻は、三角形と平行四辺形の巻だった。第2巻は、線分の量的関係を扱った。第3巻は、円を議論する。

第2巻は第1巻と趣が大きく異なる巻だったが、第3巻は再び、第1巻の雰囲気に戻る。現代の我々がよく知る円の定理を、基本的なものから順に証明していく。現代の基準に照らせば、だいたい中学3年~高校1年程度の内容だろうか。

 

最初は定義である。等しい二円や、扇形など、現代の我々もよく使う用語が登場する。なお、「円」「直径」は、第1巻で既に定義されていた。

stoixeia.hatenablog.com

ただし、「半径」は定義されていない。参考文献では「半径」と訳されているが、どうやら原文では「中心からの線」と書かれているらしい(参考文献[3]183頁)。たしかにこれなら、半径を定義する必要はない。

また、「弦」「弧」も定義されていない。当ブログでも何度も言及しているが、ユークリッドは、あまりに一般的な用語は定義し忘れている場合がある。

これから円について議論するわけだが、第1巻で既に円は登場している。だから、既にそこで議論したではないか、と思うかもしれない。しかし、実は第1巻では、円は作図に利用するだけで、円そのものの議論は全くしていないのである。使った性質も、せいぜい「円の周は中心からの距離が等しい」だけである(しかもこれは、『原論』では円の定義に含まれる)。

円にはほかにも様々な性質がある。それを、これから議論していこう。

 

だが先へ進む前に、もう少し第3巻の定義を吟味していこう。

定義の大半は、現代でも馴染みの深いものばかりである。あまり馴染みがないのは、定義6から9である。再掲しよう。

6.円の切片とは、弦と弧とに囲まれた図形である。

7.切片の角とは、弦と弧とに挟まれた角である。

8.切片内の角とは、切片の弧の上に一点が取られ、それから切片の底辺をなす弦の両端に線分が結ばれるとき、結ばれた二線分に挟まれた角である。

9.この切片内の角を挟む二線分が弧を切り取るとき、角は弧の上に立つと言われる。

「円の切片」という用語は、現代でも使うのだろうか? 私は聞いたことがない。ググっても出てこなかったので、使わないのかもしれない。

それはともかく、円の切片とは、下図の塗りつぶした部分の図形である。

f:id:kigurox:20180602160614p:plain

円ΑΒΓΔがあり、弧ΑΒΓと弦ΑΓに囲まれた図形を、円の切片と呼ぶ。もちろん、弧ΑΔΓと弦ΑΓに囲まれた図形も、円の切片である。中学受験でよく見る図形だ。

定義7の「切片の角」とは、この図で、弦ΑΓと弧ΒΓに囲まれた角を言う。弦は直線、弧は曲線なので、これは直線と曲線に挟まれた混合角である。現代では(おそらく)あまり使われない概念だが、第3巻では混合角の性質も少しだけ議論する。

定義8の「切片内の角」とは、この図の切片で言うと、角ΑΒΓのことである。

f:id:kigurox:20180602161122p:plain

現代で言う「円周角」のことだ。ただし、『原論』にも「円周における角」という表現は出てくるようである(参考文献では「円周角」と訳されている)。おそらく、円の切片が登場するかどうかで、同じものを違う用語で指すのだろう。切片がないのに「切片内の角」と書いても、意味が通らないからだ。

そして定義9であるが、これは上図において、「切片内の角ΑΒΓは、弧ΑΔΓの上に立つ」と表現する、という意味である。現代なら、「弧ΑΔΓに対する円周角ΑΒΓ」とでも表現する場面だろうか。

 

もう一つ、あまり馴染みのない用語として、「二円の相似な切片」が出てくる。『原論』では、相似を本格的に扱うのは第6巻だ。第5巻で比例論を扱ってから、第6巻で図形の相似を扱う。従って、ここでは比を使わずに、相似が定義されている。

定義11.
二円の相似な切片とは等しい角を含む、すなわち切片内の角が互いに等しいものである。

ふたつの三角形は二角がそれぞれ等しければ相似であったが、円の切片でも、切片内の角が互いに等しければ相似と呼ぶのだ。実際に相似な切片を描いてみると、以下のようになる。

f:id:kigurox:20180605205517p:plain

切片内の角の位置は、意図的にずらしてみた。切片内の角は、同じ切片(あるいは相似な切片)の中であれば、どこにあっても等しいので、位置がずれていても問題ない。

一方、相似でない切片とは、たとえば以下のようなものだ。

f:id:kigurox:20180605205932p:plain

角ΖΕΗは、角ΓΒΑに等しくないので、二つの切片ΖΕΗとΓΒΑは相似ではない。

相似とは、拡大縮小して互いに重なり合う図形のことを言う。相似な切片も、それと同じようだ。ただし前述の通り、ここではまだ比の概念を使えないため、切片内の角で代用している。

 

では、次回からいよいよ、第3巻の内容に入っていこう。