オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第2巻命題10 二等分および延長された線分上の正方形

もし線分が二等分され、任意の線分がそれと一直線を成して加えられるならば、加えられた線分を含んだ全体の上の正方形と加えられた線分上の正方形との和は、もとの線分の半分の上の正方形と、もとの線分の半分と加えられた線分とを一直線とした上の正方形との和の二倍である。

 

今回で、線分を切ったり延ばしたりする話は終了である。第2巻はもう少し続くが、次回からは意義がわかりやすい話になる。

最後を飾るのは、前回と対を成す命題である。前回は線分を二等分および二分したとき、その上にできる正方形について論じた。今回は、線分を二等分および延長したとき、その上にできる正方形について論じる。

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前回の記事でも述べたが、命題9と10は、 命題5と6とも対を成す。5と6では、正方形ではなく矩形について論じていた。

 

では今回の命題を見て行こう。例によって例のごとく、まずは線分ΑΒがある。

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線分ΑΒを点Γで二等分し、また一直線を成してΒΔを付け加える。このとき、全体ΑΔ上と、加えられた線分ΒΔ上の正方形の和が、ΑΓ上とΓΔ上の正方形との和の二倍に等しい、と述べている。

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では証明しよう。証明の手法も、前回に似ている。まずは作図だ。

点Γから直線ΑΒに垂線を引き*1、そこからΑΓ、ΓΒの双方に等しい線分ΓΕを切り取る*2。そして、ΕΑ、ΕΒを結ぶ*3

f:id:kigurox:20180423214506p:plain(ΓΕ⊥ΑΒ、ΓΕ=ΓΑ=ΓΒ)

次に、点Εを通りΑΔに平行な直線と、点Δを通りΓΕに平行な直線の交点を、Ζとする*4

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ここで二角ΓΕΖ、ΕΖΔについて考える。平行線ΕΓ、ΖΔに一直線ΕΖが交わっているので、この二角の和は二直角に等しい*5。ゆえに、二角ΒΕΖΕΖΔの和は二直角より小さい*6。同側内角の和が二直角より小さい二直線は、延長されると二直角より小さい側で交わるので、二直線ΕΒ、ΖΔは延長するとΒ、Δの側で交わる*7。その点をΗとしよう。最後にΑΗを結べば、作図は完了である*8

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前回と同様に、次は図中にある直角と直角二等辺三角形を探そう。

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まず、三角形ΑΓΕに注目しよう。辺ΑΓは辺ΓΕに等しいので、角ΕΑΓ角ΑΕΓに等しい*9。そして角ΑΓΕは直角なので、残りの二角ΕΑΓΑΕΓの和は直角であり*10、しかも等しいので、二角ΕΑΓΑΕΓはそれぞれ半直角である。同じ理由で、角ΓΕΒ、ΕΒΓもそれぞれ半直角である。ゆえに、角ΑΕΒ全体は、直角である*11

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次に、右下の三角形ΒΔΗに注目しよう。角ΔΒΗ角ΓΒΕに等しいので、半直角である*12。そして線分ΖΗは線分ΓΕの平行線なので、角ΒΔΗ角ΒΓΕに等しく*13、直角である。よって残りの角ΒΗΔは半直角である*14。従って二角ΔΒΗΒΗΔが互いに等しいので、三角形ΒΔΗは二等辺三角形であり、辺ΒΔは辺ΔΗに等しい*15

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最後に、三角形ΕΗΖに注目しよう。先ほど角ΕΗΖが半直角に等しいことがわかった。そして角ΗΖΕは直角である。なぜなら、四角形ΓΖが平行四辺形であり、対角ΕΓΔが直角だからである*16。よって残りの角ΖΕΗは半直角なので*17、二角ΕΗΖΖΕΗは互いに等しい。ゆえに三角形ΕΗΖは二等辺三角形であり、辺ΗΖは辺ΕΖに等しい*18

以上で、いくつかの直角と直角二等辺三角形が発見できた。ここから、各線分上の正方形について考察する。

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まず、ΕΓはΑΓに等しいので、ΕΓ上の正方形もΑΓ上の正方形に等しい。ゆえにこれらの和は、ΑΓ上の正方形の二倍である。ところがピタゴラスの定理より、ΕΑ上の正方形も、これらの和に等しい*19。よってΕΑ上の正方形は、ΑΓ上の正方形の二倍に等しい*20

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次に、ΖΗはΕΖに等しいから、ΖΗ上の正方形もΕΖ上の正方形に等しい。ゆえにこれらの和は、ΕΖ上の正方形の二倍である。ところがピタゴラスの定理より、ΕΗ上の正方形も、これらの和に等しい*21。よってΕΗ上の正方形は、ΕΖ上の正方形の二倍に等しい*22。しかもΕΖはΓΔに等しいので*23、結局、ΕΗ上の正方形は、ΓΔ上の正方形の二倍に等しい。

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以上のことから、ΑΕ上の正方形とΕΗ上の正方形の和は、ΑΓ上の正方形とΓΔ上の正方形の和の二倍である*24。今回の命題は、これがΑΔ上の正方形とΒΔ上の正方形の和に等しいと主張しているのだった。ゴールまであと少しだ。

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角ΑΕΗは直角なので、ピタゴラスの定理より、ΑΕ上の正方形とΗΕ上の正方形の和は、ΑΗ上の正方形に等しい*25

ところが、角ΑΔΗも直角なので、ピタゴラスの定理より、ΑΗ上の正方形は、ΑΔ、ΔΗ上の正方形の和に等しい。

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そしてΔΗはΔΒに等しいのだった。ゆえにΑΔ、ΔΒ上の正方形の和も、ΑΗ上の正方形に等しい。そしてこれはΑΓ、ΓΔ上の正方形の和の二倍に等しい。したがってΑΔ、ΔΒ上の正方形の和は、ΑΓ、ΓΔ上の正方形の和の二倍である。

よってもし線分が二等分され、任意の線分がそれと一直線を成して加えられるならば、加えられた線分を含んだ全体の上の正方形と加えられた線分上の正方形との和は、もとの線分の半分の上の正方形と、もとの線分の半分と加えられた線分とを一直線とした上の正方形との和の二倍である。これが証明すべきことであった。

 

 

今回もまた複雑な証明であったが、理解できたであろうか。『原論』特有の回りくどい証明でわかりにくいが、今回も前回同様、証明の骨子は以下の3ステップに分けられる。

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ステップ1。ΑΓ、ΓΔ上の正方形の和の二倍は、ΑΕ、ΕΗ上の正方形の和に等しい。ΓΔはΕΖとΖΗに等しいことに注意だ。

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ステップ2。ΑΕ、ΕΗ上の正方形の和は、ΑΗ上の正方形に等しい。

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ステップ3。ΑΗ上の正方形は、ΑΔ、ΔΗ上の正方形の和に等しく、ΔΗ上の正方形はΔΒ上の正方形に等しい。ゆえに、ΑΓ、ΓΔ上の正方形の和の二倍は、ΑΔ、ΔΒ上の正方形の和に等しい。

 


 

今回も前回同様、ピタゴラスの定理を使ったり、図中に正方形が描かれていなかったりなど、これまでの命題と少し異なる部分がある。

ちなみに、『原論』で描かれている図は以下のものだ。

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これも前回の記事で述べたが、命題9、10は、命題5、6と対を成している。ともに設定は同じで、命題9、10では正方形を、命題5、6では矩形を作っている。

 


 

第2巻はこれまで、線分を切ったり延ばしたりして、その上にできる矩形や正方形の性質を述べてきた。現代ではあまり見ない議論だ。

この不思議な命題群は今回で終わり、次回からはもう少し理解しやすい話になる。次の命題11は久々の作図題だ。線分を切り、その上にある条件を満たす正方形と矩形を同時に作図する。そして12、13は三角形の辺を切ったり延ばしたりし、命題14で、当時の数学者たちが特に興味を持っていた(と考えられている)作図を扱う。

 

 

*1:命題1-11「与えられた直線にその上の与えられた点から直角に直線を引くこと」

*2:命題1-3「二つの不等な線分が与えられたとき、大きいものから小さいものに等しい線分を切り取ること」

*3:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*4:命題1-31「与えられた点を通り、与えられた直線に平行線を引くこと」

*5:命題1-29「一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい」

*6:公理8「全体は部分より大きい」

*7:公準5「一直線が二直線に交わり同じ側の内角の和を二直角より小さくするならば、この二直線は限りなく延長されると二直角より小さい角のある側において交わること」

*8:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*9:命題1-5「二等辺三角形の底辺の上にある角は互いに等しく、等しい辺が延長されるとき、底辺の下の角は互いに等しいであろう」

*10:命題1-32「すべての三角形において、一辺が延長されるとき、外角は二つの内対角の和に等しく、三角形の三つの内角の和は二直角に等しい」

*11:公準4「すべての直角は互いに等しいこと」

*12:命題1-15「もし二直線が互いに交わるならば、対頂角を互いに等しくする」

*13:命題1-29「一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい」

*14:命題1-32「すべての三角形において、一辺が延長されるとき、外角は二つの内対角の和に等しく、三角形の三つの内角の和は二直角に等しい」

*15:命題1-6「もし三角形の二角が互いに等しければ、等しい角に対する辺も互いに等しいであろう」

*16:命題1-34「平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する」

*17:命題1-32「すべての三角形において、一辺が延長されるとき、外角は二つの内対角の和に等しく、三角形の三つの内角の和は二直角に等しい」

*18:命題1-6「もし三角形の二角が互いに等しければ、等しい角に対する辺も互いに等しいであろう」

*19:命題1-47「直角三角形において、直角の対辺の上の正方形は直角を挟む二辺の上の正方形の和に等しい」

*20:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*21:命題1-47「直角三角形において、直角の対辺の上の正方形は直角を挟む二辺の上の正方形の和に等しい」

*22:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*23:命題1-34「平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する」

*24:公理2「等しいものに等しいものが加えられれば、全体は等しい」

*25:命題1-47「直角三角形において、直角の対辺の上の正方形は直角を挟む二辺の上の正方形の和に等しい」