オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第2巻命題8 二分された線分全体と一方との矩形の四倍

もし線分が任意に二分されるならば、全体と一つの部分とに囲まれた矩形の四倍と残りの部分の上の正方形との和は、全体の線分と先の部分とを一直線とした線分上の正方形に等しい。

 

ここまで、線分を二分したり延長したりしてきたが(ほとんどが二分で、延長したものはこれまでのところ一つしかないが)、今回はついにその両方を行う。

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いつものように、線分ΑΒを点Γで二分する。このとき、ΑΒとΑΓに囲まれた矩形と、ΓΒ上の正方形を考える。すると、矩形ΑΒ、ΒΓの四倍と、ΑΓ上の正方形との和は、ΑΒをΓΒだけ延長したとき、その上の正方形に等しくなる、と主張している。

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二倍ならまだしも、「四倍」を考えるのは、発想としてなんとも不自然である。しかもそれと等しいのは、線分ΑΒ上の正方形ではなく、「線分ΑΒをΒΓだけ伸ばした線分」上の正方形なのである。自然に思いつくようなことではない。なぜ、なんのためにこんなことを考えるのだろうか。

この理由は、研究者たちの間でも結論が出ていないそうだ。ユークリッドの著作のひとつ『デドメナ』にてこの命題が利用されており、そこから推測するしかないらしい。が、私は詳しく知らないので、ここではこれ以上言及しないでおく。

 

では証明しよう。ただし非常にややこしいので、注意して読んでほしい。

まず線分ΑΒを延長し*1、線分ΓΒに等しい線分ΒΔを切り取ろう*2

f:id:kigurox:20180409222206p:plain(ΓΒ=ΒΔ)

そして線分ΑΔ上に正方形ΑΕΖΔを描き*3、作図を二重に繰り返す*4*5
(これは私が説明を省略しているのではなく、『原論』にこう書かれているのである)

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すると、ΓΒはΒΔに等しいが、ΓΒはΗΚにも等しく、またΒΔはΚΝにも等しいので*6、ΗΚもΚΝに等しい*7。同様に、ΠΡもΡΟに等しい。

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さて、右上にある四つの四角形は、すべて平行四辺形である。そしてΓΒはΒΔに等しいので、平行四辺形ΓΚも平行四辺形ΒΝに等しい*8。同じ理由で、平行四辺形ΗΡも平行四辺形ΚΟに等しい(なぜなら、ΠΡがΡΟに等しいので)。さらに、平行四辺形ΓΟに注目すれば、補形ΓΚは補形ΚΟに等しい*9。ゆえに、右上にある四つの四角形は、すべて互いに等しい。従ってこの四つの和は、平行四辺形ΓΚの四倍である。

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次に、ΓΒはΒΔに等しいが、ΒΔはΒΚに等しく*10、ΒΚはΓΗに等しいので*11、ΓΒもΓΗに等しい*12。再びΓΒに戻ると、これはΗΚにも等しく*13、ΗΚはΗΠに等しいので*14、ΓΒはΗΠにも等しい*15。ゆえに、ともにΓΒに等しいので、ΓΗとΗΠは互いに等しい*16

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ΓΗがΗΠに等しいので、平行四辺形ΑΗも平行四辺形ΜΠに等しい*17。また、ΠΡがΡΟに等しいことも先に示したので、平行四辺形ΠΛも平行四辺形ΡΖに等しい*18。さらに、平行四辺形ΜΛに注目すれば、補形ΜΠは補形ΠΛに等しい*19。ゆえに、ΑΗΜΠΠΛΡΖの四つは互いに等しい*20。従ってこの四つの和は、ΑΗの四倍である。

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以上から、グノーモーンΣΤΥを構成する八つの四角形は、ΓΚの四倍と、ΑΗの四倍であることがわかった。すなわち、グノーモーンΣΤΥは、矩形ΑΚの四倍である。

双方にΑΓ上の正方形に等しいΞΘ*21*22を加えると、ΣΤΥとΞΘの和は、矩形ΑΚの四倍とΞΘの和に等しい*23。ところが、ΣΤΥとΞΘの和はΑΔ上の正方形ΑΕΖΔ全体である。従って、矩形ΑΚの四倍とΞΘの和は、正方形ΑΕΖΔ全体に等しい。

そして、矩形ΑΚは、矩形ΑΒ、ΒΔである(なぜなら、辺ΒΚが線分ΒΔに等しいので)。しかもΒΔはΒΓに等しいので、結局、矩形ΑΚは矩形ΑΒ、ΒΓに等しい。ゆえに、二線分ΑΒ、ΒΓに囲まれた矩形の四倍と、ΑΓ上の正方形との和は、ΑΒ、ΒΓを一直線とした上の正方形に等しい。

よって、もし線分が任意に二分されるならば、全体と一つの部分とに囲まれた矩形の四倍と残りの部分の上の正方形との和は、全体の線分と先の部分とを一直線とした上の正方形に等しい。これが証明すべきことであった。

 

あややこしい!

このややこしさの原因は、ひとえにここにある。

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直感的には、右上の四つの四角形はすべて等しい正方形である。ところが『原論』では、ΒΝとΗΡが正方形であることは示したが(第2巻命題4系)、ΓΚとΚΟが正方形であることは示されていないのである。そのため、この四つが等しいことを言うために、正方形の性質と平行四辺形の性質を巧みに利用する必要がある。これがややこしさの原因だ。

また同じ理由により、辺ΓΗと辺ΗΠが等しいことを言うのにも、一苦労した。

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ΓΚが正方形だとわかっていればすぐ済む話なのに、それがわかっていないため、回りくどく等しい辺を辿っていかなくてはならなかったのだ。

 

今回の命題の証明は、直感的には以下の図で済む。

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矩形ΑΚを線分ΓΗで切り、四つずつ用意して並べ替えると、グノーモーン∑ΤΥになる。そこにΞΘを加えれば、ΑΔ上の正方形になる。そして矩形ΑΚは二線分ΑΒ、ΒΓに囲まれた矩形であり、ΞΘは線分ΑΓ上の正方形である。ゆえに、ΑΒ、ΒΓに囲まれた矩形とΑΓ上の正方形との和は、ΑΔ上の正方形に等しい。

証明が長くなったのは、上述の通り、グノーモーンを構成する四つの正方形と四つの矩形が、それぞれ等しいことを示すのに回り道をしたからだ。

 


 

今回の図は、一部を隠すと、前回の命題になる。

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前回の命題は、矩形ΜΚ、ΚΗの二倍と、正方形ΞΘを併せると、正方形ΚΟが正方形ΜΛからはみ出す、という内容だった。

stoixeia.hatenablog.com

前回の記事でも触れた通り、前回の命題7は、命題4と全く同じ図である。にもかかわらず、4と7が離して置かれているのは、ユークリッドが4と7より、7と8の繋がりを重視したからかもしれない。つまり、8の一部を隠すと7になり、7を二重にすると8になる、という繋がりである。

 


 

余談だが、点ΓがΑΒの中点にあるときは、以下のようになる。

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だからどうした、と聞かれると困るのだが。

 

 

*1:公準2「有限直線を連続して一直線に延長すること」

*2:命題1-3「二つの不等な線分が与えられたとき、大きいものから小さいものに等しい線分を切り取ること」

*3:命題1-46「与えられた線分上に正方形を描くこと」

*4:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*5:命題1-31「与えられた点を通り、与えられた直線に平行線を引くこと」

*6:命題1-34「平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する」

*7:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*8:命題1-36「等しい底辺の上にあり、かつ同じ平行線の間にある平行四辺形は互いに等しい」

*9:命題1-43「すべての平行四辺形において、対角線をはさむ二つの平行四辺形の補形は互いに等しい」

*10:命題2-4系「正方形において、対角線を挟む平行四辺形は正方形である」

*11:命題1-34「平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する」

*12:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*13:命題1-34「平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する」

*14:命題2-4系「正方形において、対角線を挟む平行四辺形は正方形である」

*15:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*16:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*17:命題1-36「等しい底辺の上にあり、かつ同じ平行線の間にある平行四辺形は互いに等しい」

*18:命題1-36「等しい底辺の上にあり、かつ同じ平行線の間にある平行四辺形は互いに等しい」

*19:命題1-43「すべての平行四辺形において、対角線をはさむ二つの平行四辺形の補形は互いに等しい」

*20:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*21:命題2-4系「正方形において、対角線を挟む平行四辺形は正方形である」

*22:命題1-34「平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する」

*23:公理2「等しいものに等しいものが加えられれば、全体は等しい」