オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第2巻命題4 二分された線分全体の上の正方形

もし線分が任意に二分されるならば、全体の上の正方形は、二つの部分の上の正方形と、二つの部分によって囲まれた矩形の二倍との和に等しい。

 

この命題は、以前「定義」の記事でちらっと紹介したもので、一見すると次の展開の公式に見えるものだ。

 (a+b)^2 = a^2 + b^2 + 2ab

stoixeia.hatenablog.com

だがこの記事でも紹介したように、現在ではこれが展開の公式だという解釈は否定されているようだ。

 

例のごとく、線分ΑΒがあり、それを任意の点Γで二分する。

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このとき、全体ΑΒ上の正方形は、二つの部分ΑΓ、ΓΒの上の正方形と、二つの部分によって囲まれた矩形ΑΓ、ΓΒの二倍に等しいと主張している。

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では証明していこう。今回も、図を描くところから始める。

まず線分ΑΒの上に正方形を描き*1、ΒΔを結ぶ*2

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次に、Γを通りΑΔ(またはΒΕ)に平行な線分ΓΖを描き*3、線分ΒΔとの交点をΗとする。

f:id:kigurox:20180317043419p:plain(ΑΔ // ΓΖ // ΒΕ)

そして点Ηを通り、ΑΒ(またはΔΕ)に平行な線分ΘΚを引く*4

f:id:kigurox:20180317042602p:plain(ΑΒ // ΘΚ // ΔΕ)

さて、これから、右上の四角形ΓΒΚΗが正方形であることを示す。そのためには、これが等辺かつ矩形(四つの角がすべて直角な四角形)であることを示せばよい。

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二線分ΓΖ、ΑΔは平行線であり、そこに線分ΒΔが交わっているので、外角ΓΗΒは内対角ΑΔΒに等しい*5。また三角形ΑΒΔに注目すると、これは二辺ΑΒ、ΑΔが互いに等しい三角形なので、角ΑΔΒは角ΑΒΔに等しい*6。したがって角ΓΗΒも角ΑΒΔに等しい*7

ゆえに、三角形ΓΒΗに注目すると、これは二角の等しい三角形なので、辺ΓΒも辺ΓΗに等しい*8。ところで、四角形ΓΗΚΒは平行四辺形(対辺が平行な四角形)なので、辺ΓΒは辺ΗΚに、辺ΓΗは辺ΒΚに等しい*9。したがって、辺ΒΓも辺ΒΚに等しい*10。よって、四角形ΓΗΚΒは等辺である。

次に、矩形であることを示そう。

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二線分ΓΗ、ΒΚは平行線なので、二角ΗΓΒ、ΓΒΚの和は二直角に等しい*11。また、角ΓΒΚは直角である(ΑΒΕΔが正方形なので)。ゆえに角ΗΓΒも直角である*12*13。よって、それぞれの対角ΓΗΚ、ΒΚΗも直角である*14。ゆえに四角形ΓΗΚΒは矩形である。

以上から、四角形ΓΗΚΒは等辺かつ矩形であることが示せたので、これは正方形である*15。そして、線分ΓΒの上にある。

同様に、四角形ΘΗΖΔも正方形である。そしてΘΗすなわちΑΓの上にある(なぜなら、四角形ΑΓΗΘは平行四辺形なので)*16

ここまでで、正方形ΘΖ、ΓΚが、それぞれ線分ΑΓ、ΓΒの上の正方形であることが示せた。

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次に、二つの補形ΑΗ、ΗΕに注目しよう。補形なので、ΑΗはΗΕに等しい*17。また辺ΗΓは線分ΓΒに等しいので、補形ΑΗは、矩形ΑΓ、ΓΒである(角ΑΓΗが直角であることは証明抜きに使われている)。したがって補形ΗΕも矩形ΑΓ、ΓΒに等しい。それゆえ、二つの補形ΑΗ、ΗΕの和は、矩形ΑΓ、ΓΒの二倍に等しい。

以上から、四つの矩形ΘΖ、ΓΚ、ΑΗ、ΗΕの和は、ΑΓ上の正方形、ΓΒ上の正方形、ΑΓとΓΒに囲まれた矩形の二倍との和に等しいことが示せた。ところがΘΖ、ΓΚ、ΑΗ、ΗΕの和は、正方形ΑΒΕΔ全体、すなわちΑΒ上の正方形である。従って、ΑΒ上の正方形は、ΑΓ上の正方形、ΓΒ上の正方形、ΑΓとΓΒに囲まれた矩形の二倍との和に等しい。

よって、もし線分が任意に二分されるならば、全体の上の正方形は、二つの部分の上の正方形と、二つの部分によって囲まれた矩形の二倍との和に等しい。これが証明すべきことであった。

 

思いのほか長い証明である。もっとも証明の大半は、ΓΚが正方形であることに充てられている。

なおΓΚが正方形であることは、今後の命題でもたびたび登場する。そのときは、証明抜きで利用される。

いっそのこと、この部分だけ命題として書いてもよさそうな気もする。後世の写本には、命題4の系として、

正方形において、対角線を挟む平行四辺形は正方形である。

と追記されているものもあるようだ。当ブログでも、この性質は「命題2.04系」としてタグ付けしておこう。

 


 

冒頭で触れた通り、今回の命題は次の展開の公式
  (a+b)^2 = a^2 + b^2 + 2ab
だと解釈されていた。

ユークリッドにそのような意識があったかどうかは別にして、この図は確かに、この公式を説明するのに便利だ。実際、この図は中学の教科書などにも掲載されている。我々は、2300年も昔に書かれた『原論』を元ネタに、数学を学んでいるのである。

 

ところで、代数学ではこの公式を、分配法則を使って証明する。なら今回の命題4も、分配法則に相当する命題2と3で示せるはずである。やってみよう。

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命題2より、線分ΑΒ上の正方形は、矩形ΑΒ、ΑΓと、矩形ΑΒ、ΒΓの和に等しい。
命題3より、矩形ΑΒ、ΑΓは、矩形ΑΓ、ΒΓと線分ΑΓ上の正方形に等しい。
命題3より、矩形ΑΒ、ΒΓは、矩形ΑΓ、ΒΓと線分ΒΓ上の正方形に等しい。

以上から、線分ΑΒ上の正方形は、矩形ΑΓ、ΒΓの二倍と、線分ΑΓ上の正方形と、線分ΒΓ上の正方形に等しい。これが証明すべきことであった。

なんとこれだけで済む。ユークリッドがわざわざ作図した理由は、私にはよくわからない。代数的に捕らえていなかったからだろうか。探せば追究した論文か何かが出てくるかもしれない。

 

命題2は文字式で書くと
  s = a + b ならば s^2 = sa + sb
となり、命題3は文字式で書くと
  (a+b) a = a^2+ab
となる。上の証明では命題2を一回使ったあと命題3を二回使っているが、
  (a+b)^2 = a^2 + b^2 + 2ab
を代数的に証明するときも、命題2を一回使ったあと命題3を二回使う。全く同じ形だ。

まあ、代数的な証明をもとに上の証明を書いたので、当然なのだが。

stoixeia.hatenablog.com

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このように、整理すればするほど、第2巻は代数学にしか見えない。長い間第2巻が「幾何学代数学」と呼ばれていたのも頷けるだろう。

 

 

*1:命題1-46「与えられた線分上に正方形を描くこと」

*2:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*3:命題1-31「与えられた点を通り、与えられた直線に平行線を引くこと」

*4:命題1-31「与えられた点を通り、与えられた直線に平行線を引くこと」

*5:命題1-29「一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい」

*6:命題1-5「二等辺三角形の底辺の上にある角は互いに等しく、等しい辺が延長されるとき、底辺の下の角は互いに等しいであろう」

*7:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*8:命題1-6「もし三角形の二角が互いに等しければ、等しい角に対する辺も互いに等しいであろう」

*9:命題1-34「平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する」

*10:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*11:命題1-29「一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい」

*12:公準4「すべての直角は互いに等しいこと」

*13:公理3「等しいものから等しいものが引かれれば、残りは等しい」

*14:命題1-34「平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する」

*15:定義1-22「四辺形のうち、正方形とは等辺でかつ角が直角のもの、矩形とは角が直角で等辺でないもの、菱形とは等辺で角が直角でないもの、長斜方形とは対辺と対角が等しいが等辺でなく角が直角でないものである。これら以外の四辺形はトラペジオンと呼ばれるとせよ」

*16:命題1-34「平行四辺形において、対辺および対角は互いに等しく、対角線はこれを二等分する」

*17:命題1-43「すべての平行四辺形において、対角線をはさむ二つの平行四辺形の補形は互いに等しい」