オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第1巻命題44 三角形に等しい平行四辺形の作図[角と線分を与えられた場合]

与えられた線分上に与えられた三角形に等しい平行四辺形を、与えられた直線角に等しい角の中に作ること。 

 

前々回、与えられた三角形に等しい平行四辺形を、与えられた角の中に作った。

stoixeia.hatenablog.com

これは言い換えれば、面積と一角を指定された平行四辺形を作図したということだ。

今回は、面積と一角、そして一辺を指定された平行四辺形を作図したい。

(2018/02/21追記)このように、与えられた直線に与えられた図形に等しい平行四辺形を作図する操作を「領域付置」と呼ぶ。

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図のように、線分ΑΒ、三角形Γ、直線角Δが与えられたとする。このとき、線分ΑΒ上に、面積がΓで、一角がΔの平行四辺形を作図しよう。ただし、かなり複雑な作図となるので、注意して読んでほしい。一応、図だけ眺めてもなんとなく作図方法がわかるようにする。

まず、三角形Γに等しい平行四辺形を、角Δに等しい角の中に作図する*1

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そしてこれを、一辺がΑΒと一直線を成すように置く(※)。

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置き方は色々あるが、上図では先に作った平行四辺形を、反時計回りに回転させている。重要なのは、角Δに等しい角ΗΒΕが、点Βの上にあることだ。

そしたら、点Αを通り、直線ΗΒ(またはΖΕ)に平行な直線を描き*2、線分ΖΗの延長との交点をΘとする*3

f:id:kigurox:20180209091710p:plain(ΖΕ // ΗΒ // ΘΑ)

平行線の同側内角の和は二直角に等しいので、角ΕΖΘ角ΖΘΑの和は二直角に等しい*4。そこで、ΘΒを結ぶと*5角ΕΖΘ角ΖΘΒの和は二直角より小さくなる*6

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同側内角の和が二直角より小さい二直線は、延長されるとそちら側で交わる。よって二直線ΖΕとΘΒを延長すると、ΕとΒの側で交わる*7。その交点をΚとしよう。

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そしたら、点Κを通り、直線ΕΑ(またはΖΘ)に平行な直線を引き*8、ΗΒ、ΘΑの延長との交点を、それぞれΜ、Λとする*9

f:id:kigurox:20180209092954p:plain(ΚΛ // ΕΑ // ΖΘ)

このとき四角形ΑΒΜΛは平行四辺形となるが、これが求める平行四辺形である。

長い作図であるが、証明は呆気なく終わる。三角形Γと角Δを併せた図を見ながら、証明しよう。

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まず、大きい四角形ΖΘΛΚは平行四辺形であり、ΘΚはその対角線だ。そして四角形ΖΒΒΛはその補形である。平行四辺形の補形は等しいので、ΒΛΖΒに等しい*10。そしてΖΒ三角形Γに等しいので、ΒΛΓに等しい*11

また角ΑΒΜ角ΗΒΕに等しい*12。そして角ΗΒΕ角Δに等しいので、角ΑΒΜ角Δに等しい*13

しかも平行四辺形ΒΛは、与えられた線分ΑΒの上に作られている。

よって、与えられた線分ΑΒの上に、与えられた三角形Γに等しい平行四辺形ΒΛが、与えられた直線角Δに等しい角ΑΒΜの中に作られた。これが作図すべきものであった。

 

長い作図であったが、理解できたであろうか。要は、三角形Γに等しい平行四辺形を、線分ΑΒの延長上に作図し、その補形を作図する、という手順である。

 

問題は(※)を付けた『一辺がΑΒと一直線を成すように置く』の箇所である。ここでユークリッドは、作図した平行四辺形を移動させよと言っている。

だが、どうやって移動させるかは、一切説明していない。

ユークリッドはこれまで非常に慎重に論理を進めており、第1巻の最初では、たかが線分一本動かすのすら慎重になっていた。

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だがそれが図形になった途端、なんの説明もなしにほいほいと動かしてしまうのだ。

正直言って、全く納得いかない。どうして突然、こんなことをするのだろう?

一応、平行四辺形を移動させる作図が、不可能なわけではない。例えば下図のように、線分ΑΒをΒの方に延長し、角Δに等しい角ΕΒΗを作図し、直線ΒΕ、ΒΗから平行四辺形の各辺に等しい線分を切り取る。そして点Εを通りΒΗに平行な線分と、点Ηを通りΒΕに平行な線分を引き、その交点をΖとする。

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これで、三角形Γの上に作られた平行四辺形を、線分ΑΒと一辺が一直線を成すように置けた。

もしくは、線分ΑΒを移動させてもよいだろう。これは命題2の方法でできるので、説明も簡単だ。

他にも方法は考えられるだろう。しかしこの命題では、一切何の説明もなく、突然図形を動かしている。

そういえば、命題4で三角形の合同条件を証明したときも、突然三角形を動かしていたのだった。

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このときは作図ではなく論証の過程で動かしていたのでそれほど気にならなかったのだが、いま思えば慎重さが足りないと言える。図形を動かしても、辺や角の大きさが変わらないという保証がないからだ。

今回の命題に限って言えば、「線分を移す作図」も「角を移す作図」も既に登場しているので、それらを駆使して図形を動かすことはできる。だが命題4の時点では、まだそうではなかった。*14

理由はわからないが、明らかにユークリッドの中では、線分と図形は全く異なる性質のものだと理解されていたようだ。

 

 

*1:命題42「与えられた直線角の中に与えられた三角形に等しい平行四辺形を作ること」

*2:命題31「与えられた点を通り、与えられた直線に平行線を引くこと」

*3:公準2「有限直線を連続して一直線に延長すること」

*4:命題29「一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい」

*5:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*6:公理8「全体は部分より大きい」

*7:公準5「一直線が二直線に交わり同じ側の内角の和を二直角より小さくするならば、この二直線は限りなく延長されると二直角より小さい角のある側において交わること」

*8:命題31「与えられた点を通り、与えられた直線に平行線を引くこと」

*9:公準2「有限直線を連続して一直線に延長すること」

*10:命題43「すべての平行四辺形において、対角線をはさむ二つの平行四辺形の補形は互いに等しい」

*11:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*12:命題15「もし二直線が互いに交わるならば、対頂角を互いに等しくする」

*13:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*14:2018/02/21追記。命題4の前に「線分を移す作図」があるので、三角形は移せると解釈されているようだ。参考文献[3]第1巻より。