オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第1巻命題31 平行線の作図

与えられた点を通り、与えられた直線に平行線を引くこと。 

 

命題23以来の作図題である。ここまでに証明した平行線の性質を使って、平行線を描く。次回は再び定理へ戻る。

 

点Αと直線ΒΓが与えられたとき、点Αを通り直線ΒΓに平行な直線を作図したい。

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まず、直線ΒΓ上に適当な点Δを取り、ΑΔを結ぶ*1

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そして点Αにおいて、角ΑΔΓに等しい角ΔΑΕを作り*2、直線ΑΕを延長してΕΖとする*3

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すると、直線ΕΖが求める平行線である。

証明は自明だろう。直線ΑΔが、二直線ΒΓ、ΕΖに交わり、錯角ΕΑΔ、ΑΔΓを等しくしているので、直線ΕΖは直線ΒΓに平行である*4

よって、与えられた点を通り、与えられた直線に平行な直線が引かれた。これが作図すべきものであった。

 

なるほどな、という方法である。私はこれまで、点Αから直線ΒΓに垂線を下ろし、さらにその垂線に点Αを通る垂線を描く、という方法で作図していた。この方法は二度手間で面倒だと思っていたのだが、『原論』の方法なら一度で描くことができる。

ちなみに、作図に用いた線は以下の通りだ。

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中心Α、半径ΔΓの円と、中心Δ、半径ΑΓの円の交点をΕとし、ΑΕを結んでいる。こうすると、二つの三角形ΑΔΓとΔΑΕの三辺がそれぞれ等しいので、合同となる。よって角ΑΔΓと角ΔΑΕが等しくなる。

この方法は、命題23の方法と本質的には同じだが、少しだけ違う。詳しいことは、命題23の記事の後半を読んでほしい。

stoixeia.hatenablog.com

 

ところで、二つの円の交点は二つできる。しかし、Αと結んで平行線が作れるのは、片方だけである。

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この図で、角ΔΑΗは角ΑΔΓを移したものであるが、直線ΑΗはΒΓの平行線ではない。『原論』の説明だけだとこのような直線も描けてしまうので、「角ΑΔΓに等しい角ΔΑΕを、直線ΑΔに対して異なる側に作る」などと書いた方がよかったのではなかろうか。

まぁ、「見ればわかるだろ」と言われれば、そうなのだが。

 


 

今回の命題は作図題であるので、「点Αを通り直線ΒΓに平行な直線を少なくとも一本描く方法」を示しただけである。したがって、「そのような直線は一本だけか?」という議論は全くされていない。

もちろん、そのことは簡単に証明できる。

前回の記事の後半で、平行線の一方に交わる直線は、他方にも交わることを証明した。

stoixeia.hatenablog.com

このことを利用すれば、証明は一瞬だ。

作図した直線をΕΖとする。ΕΖはΒΓに平行なので、点ΑでΕΖに交わる直線を描けば、上記のことより、それはΒΓにも交わる。よって点Αを通るΕΖ以外のいかなる直線も、ΒΓに平行でない。これが証明すべきことであった。

 

ちなみに、いま証明した「点Αを通り直線ΒΓに平行な直線は一本だけである」という定理(平行線の一意性*5)は、第五公準(平行線公準)と同値であることが知られている。つまり、第五公準から一意性を証明できるし、逆に一意性から第五公準を証明することもできる。前者は今やったので、後者の証明をやってみよう。

点Αを通り、直線ΒΓに平行な直線をΗΘを描く(命題31。この作図に公準5は使わない)。さらに、ΗΘと点Αで交わる直線ΕΖを描こう。

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そして、同側内角ΖΑΔΓΔΑの和が、二直角より小さくなったとする。このとき、ΕΖとΒΓは、ΖとΓの側で交わることを示そう。

まずは、このとき二角ΕΑΔΑΔΒの和が二直角より大きいことを示す。
直線ΕΖに注目すると、二角ΕΑΔΖΑΔの和は二直角に等しい(命題13)。同様に直線ΒΓに注目すると、二角ΑΔΒΓΔΑの和も二直角に等しい(命題13)。各々を加えると、四つの角ΕΑΔΖΑΔΑΔΒΓΔΑの和は、二直角と二直角の和に等しい(公理2)。
ところで、二角ΖΑΔΓΔΑの和は二直角より小さいのであった。二直角から二直角より小さい角を引くと、何らかの角が残される。ゆえに四角ΕΑΔΖΑΔΑΔΒΓΔΑの和から二角ΖΑΔΓΔΑの和を引くと、二直角と何らかの角の和となる。よって二角ΕΑΔΑΔΒの和は二直角より大きい。

さて、直線ΕΖは、ΒΓに平行ではない。なぜなら、ΗΘもΕΖも点Αを通るが、平行線の一意性より、このような平行線は一本だけだからだ。そしてΗΘが平行線なので、ΕΖは平行線ではない。

平行でない二直線はどこかで交わる。仮にΕとΒの側で交わるとしよう。その交点をΚとする。

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ここで三角形ΚΑΔに注目すると、これは二角ΕΑΔΑΔΒの和が二直角より大きい三角形となる。しかしこれは不可能である(命題17)。よって、ΕとΒの側では交わらない。しかしどこかでは交わらないといけないので、ΖとΓの側で交わる。そして二角ΖΑΔΓΔΑの和は二直角より小さいのであった。

よって二直線に一直線が交わるとき、同側内角の和が二直角より小さければ、二直線は和が二直角より小さい側で交わる。これが証明すべきことであった。

 

これで、平行線の一意性から平行線公準が示せた。逆に、平行線公準から平行線の一意性が示せることも既に述べた。よってこの二つは、数学的には同じことを述べていると言える。

数学的に同じことなので、平行線公準を否定すると、平行線の一意性も否定することになる。つまり、点Αを通るΒΓの平行線が、二本以上引けることになるのだ。

ただし、平行線公準を否定しても、平行線が0本になることはない。平行線が少なくとも一本存在すること(今回の命題31)は、平行線公準抜きで証明できるからだ*6

平行線を0本にするためには、今回の命題31が間違っている必要がある。今回の作図では等しい角を作図することがポイントになっているが、そのためには合同な三角形を描く必要があり、そのためには長さ(線分)を移す必要があり、そのためには公準2「有限直線を連続して一直線に延長すること」が必要である。従って、公準2を否定すれば、平行線が存在しなくなる可能性がある。

「直線を延長できない世界」とは、例えば球面上の世界などだ。球面上の直線は、延ばしていくといずれぐるりと球面を一周してしまう。するとそれ以上延ばすことができなくなるので、公準2が成立しなくなる。

そして確かに、球面上では平行線を引けないことが知られている。どんな二直線も球面上をぐるりと一周するため、必ず二点で交わるのだ。*7

 

 

*1:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*2:命題23「与えられた直線上にその上の点において与えられた直線角に等しい直線角を作ること」

*3:公準2「有限直線を連続して一直線に延長すること」

*4:命題27「もし一直線が二直線に交わって成す錯角が互いに等しければ、この二直線は互いに平行であろう」

*5:(2018/01/22追記)一般的には、これは「平行線の公理」と呼ばれるらしい。

*6:恥ずかしながら、私はこの点、今の今まで勘違いしていた。

*7:ついでに言うと、長さを移せるとも限らなくなる。本当かな? もしかしたら、どこかで議論を間違えているかもしれない。

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