オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第1巻命題30 三直線の平行

同一の直線に平行な二直線はまた互いに平行である。

 

久々の「当たり前だ」案件である。毎度述べていることだが、このような当たり前のこともきっちり証明するのが『原論』のスタンスであり、そこが『原論』の魅力の一つでもある。

 

直線ΑΒ、ΓΔの双方が、直線ΕΖに平行なとき、ΑΒとΓΔも互いに平行だと主張している。

f:id:kigurox:20171228001911p:plain(ΑΒ//ΕΖ、ΓΔ//ΕΖ)

証明は簡単だ。

直線ΗΚが、三直線ΑΒ、ΕΖ、ΓΔに、三点Η、Θ、Κでそれぞれ交わるとする。

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二直線ΑΒ、ΕΖは平行なので、角ΑΗΚは角ΗΘΖに等しい*1。同様に、二直線ΕΖ、ΓΔも平行なので、角ΗΘΖは角ΗΚΔに等しい*2。ゆえに角ΑΗΚも角ΗΚΔに等しい*3。そしてこれらは錯角であり、錯角が等しい二直線は平行なので*4、直線ΑΒはΓΔに平行である。

よって同一の直線に平行な二直線はまた互いに平行である。これが証明すべきことであった。

 

簡単な証明である。

簡単な証明であるのだが、実は一か所、穴があることが知られている。どこだかわかるだろうか。私はわからなかった。

 

実は、直線ΗΚを引いたとき、これが二直線に交わることは明らかだが、三直線すべてに交わることは自明ではないのだ。

正確に言うと、「二直線に交わる直線」は常に引くことができるが、それが常に三本目に交わるとは限らない。

二直線に交わる直線は、二直線の上にそれぞれ点を取り、両者を結べば描ける(公準1、2)。しかし、それが下図のようになってしまう場合がある。

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二直線ΑΒ、ΕΖに交わる直線ΗΘが、第三の直線ΓΔに平行になってしまう場合だ。

ただしこの場合、ΓΔはΕΖに明らかに平行ではない。なので証明の穴を埋めるには、ΓΔがΕΖに平行なら、ΕΖと交わる直線ΗΘはΓΔに交わることを証明すればよい。一般的な言い方をすれば、「二つの平行線の一方に交わる直線は、他方にも交わる」だ。

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二つの平行線ΕΖ、ΓΔがあり、直線ΗΘがΕΖと一点Κだけで交わるとする。 このとき、ΗΘがΓΔにも交わることを示す。

ΓΔ上に一点Λを取り、ΚΛを結ぶ(公準1)。

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ここで、角ΘΚΛは、角ΕΚΛより小さいか、等しいか、大きいかの、いずれかだ。

まず等しい場合であるが、等しいものは互いに重なり合うので、二つの角は重なり合ってしまう。すると二直線ΕΖとΗΘも重なるが、これは二直線が一点Κだけで交わるという仮定に反する。ゆえに、等しい場合については考察しない*5

次に、角ΘΚΛが角ΕΚΛより小さい場合(上図の場合)。角ΘΚΛと角ΕΚΛの双方に角ΚΛΓを加えると、二角ΘΚΛΚΛΓの和は、二角ΕΚΛΚΛΓの和より小さい(公理4)。ところで直線ΕΖはΓΔに平行なので、二角ΕΚΛΚΛΓの和は二直角に等しい(命題29)。したがって二角ΘΚΛΚΛΓの和は二直角より小さい。ゆえに公準5より、二直線ΗΘとΓΔは交わる。

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そして、角ΘΚΛが角ΕΚΛより大きい場合。双方に角ΗΚΛを加えると、二角ΘΚΛΗΚΛの和は二角ΕΚΛΗΚΛの和より大きい(公理4)。そして二角ΘΚΛΗΚΛの和は二直角なので(命題13)、二角ΕΚΛΗΚΛの和は二直角より小さい。ところで角ΕΚΛは角ΚΛΔに等しいので、角ΗΚΛと角ΚΛΔの和も二直角より小さい(公理1、2)。ゆえに公準5より、二直線ΗΘとΓΔは交わる。

最後に、直線ΗΘが、ΚΛに重なってしまう場合。このときは、ΗΘは点ΛでΓΔに交わっている。

よって、二つの平行線の一方に交わる直線は、他方にも交わる。これが証明すべきことであった。

 

重箱の隅を突くような話ではある。とはいえ、一本以上の直線がある平面上に、もう一本直線を追加したとき、その直線がすべての直線と交わるとは限らないことは、少し数学をやった人間にとっては常識である。注意するに越したことはないだろう。

ちなみに当ブログの参考文献では、証明の冒頭部分を「直線ΗΚがそれらに交わるとせよ」と訳している。原文のニュアンスはわからないが、これを読む限り「交わった場合について考える(交わらなかった場合は除外する)」というニュアンスのように感じる。ユークリッドも交わらない可能性には気付いた上で、「その場合は無視する」と判断したのではないだろうか。

ただまぁ、細かい話ではあるが、「交わらなかった場合はどうするのか?」という疑問は正当なような気もする。それに対する回答が、「必ず交わる」なのだ。

 

 

*1:命題29「一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい」

*2:命題29「一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい」

*3:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*4:命題27「もし一直線が二直線に交わって成す錯角が互いに等しければ、この二直線は互いに平行であろう」

*5:この論証の仕方がユークリッド的かどうかは微妙である。ユークリッドは「交わるとは、一方が他方を二つの部分に分けることである」と考えていた節があるらしいので、「二直線が重なる場合は二つの部分に分けられていない、ゆえに交わっていない」と論証した方がよいかもしれない