オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第1巻命題29 平行線の錯角、同位角は等しい

一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい。 

 

前回、前々回で、「錯角が等しいなら平行」「同位角が等しいか、同側内角の和が二直角なら平行」を証明した。今回は、これらの逆を一気に証明する。

 

平行な二直線ΑΒ、ΓΔがあり、そこに一直線ΕΖが二点Η、Θでそれぞれ交わるとする。このとき、

  • 錯角ΑΗΘΗΘΔは等しい
  • 外角ΕΗΒは内対角ΗΘΔに等しい
  • 同側内角ΒΗΘΗΘΔの和は二直角に等しい

ことを証明する。

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まずは錯角が等しいことを、背理法で証明しよう。

もし角ΑΗΘが角ΗΘΔに等しくないならば、どちらかが大きい。仮にΑΗΘが大きいとしよう。双方に角ΒΗΘを加える。すると、角ΑΗΘΒΗΘの和は、角ΗΘΔΒΗΘの和より大きい*1。ところで、角ΑΗΘΒΗΘの和は二直角であるから*2、角ΗΘΔΒΗΘの和は二直角より小さい。

二角ΗΘΔΒΗΘは、二直線ΑΒ、ΓΔの同側内角であるが、公準5より、同側内角の和が二直角より小さい二直線は、限りなく延長されると小さい角の側で交わる*3。ゆえに、二直線ΑΒ、ΓΔは、限りなく延長されると交わるはずである。しかしこの二直線は平行線なので、それは不可能である。したがって二角ΑΗΘΗΘΔは不等ではない、よって等しい。

 

これで錯角が等しいことが示せた。そしてこのことを使うと、残り二つも即座に示せる。読みやすいように図を再掲しよう。

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外角ΕΗΒが内対角ΗΘΔに等しいことを示そう。
ΕΗΒは対頂角ΑΗΘに等しい*4。そして角ΑΗΘΗΘΔに等しいことはたった今示した。よって、外角ΕΗΒも内対角ΗΘΔに等しい*5

最後に、同側内角ΒΗΘΗΘΔの和が二直角に等しいことを示す。
いま角ΕΗΒは角ΗΘΔに等しいことを示したが、双方にΒΗΘを加えよう。等しいものに等しいものを加えても全体は等しいので、二角ΕΗΒΒΗΘの和は、二角ΗΘΔΒΗΘの和に等しい*6。そして二角ΕΗΒΒΗΘの和は二直角に等しいので*7、二角ΗΘΔΒΗΘの和も二直角に等しい*8

以上で、「錯角ΑΗΘΗΘΔは等しい」「外角ΕΗΒは内対角ΗΘΔに等しい」「同側内角ΒΗΘΗΘΔの和は二直角に等しい」がすべて示せた。

よって一つの直線が二つの平行線に交わって成す錯角は互いに等しく、外角は内対角に等しく、同側内角の和は二直角に等しい。これが証明すべきことであった。

 

ついに、第五公準の登場である。

以前の記事で、公準5は第1巻の後半にならないと登場しないと紹介した。

stoixeia.hatenablog.com

第1巻は全部で48個の命題があるので、確かに今回の命題29は「後半」である。他の公準がもっと早い段階(公準1と3は命題1、公準2は命題2、公準4は命題14)で登場することを考えると、意図的に後ろの方に持ってきているのではと勘繰ってしまう。

実際そう考えている研究者が大半のようで、このことから「ユークリッドも、第五公準公準として認めがたかったのではないか?」と言われている。

ユークリッドが「自分に証明できないだけで、第五公準はほかの四つの公準から証明できるのかもしれない」と考えたため、第五公準を使う命題を念のため後ろの方に持ってきた、というわけだ。そういう命題を前の方に持ってきて、もしあとで第五公準間違っていることが証明されたら、その命題を使って証明した他のすべての命題に影響が出てしまう。そうした影響を最小限に抑えるために後ろに持ってきたのだ。あるいは、『原論』を書いているうちに証明を思いつくことを期待して、第五公準を使う命題をギリギリまで後回しにしたのかもしれない。

今回の命題は、冒頭で述べた通り前回と前々回の「錯角が等しいなら平行」「同位角が等しいか、同側内角の和が二直角なら平行」の逆であるが、この命題の並び順も意味深だ。これまでも、ある命題を証明したら次にその逆を証明する、というパターンは何度もあった。命題5「二等辺三角形の底角は等しい」の次が「底角の等しい三角形は二等辺三角形」だとか、命題13「直線は二直角」の次が「二直角は直線」だとかだ。

なんとなくだが、このようなパターンのときは話が単純な命題の方が先に書かれていたように思う。二等辺三角形の性質を述べたあとにその逆を証明し、直線の性質を述べたあとにその逆を証明しているのだ。この流れに続くなら、平行線の性質を述べたあとにその逆を述べるべきだろう。つまり、「平行線なら錯角と同位角が等しく、同側内角の和は二直角に等しい」を述べたあと、その逆を証明した方が流れとしては自然だ。

しかし命題27から29の流れは、完全に逆である。29の証明に27や28を使うならわかるが、そういうわけでもないので、やはり第五公準を使う証明を後回しにしたかったように感じられる。

 


 

今回の命題の

一つの直線が二つの平行線に交わって成す……同側内角の和は二直角に等しい

の部分は、第五公準のほぼ対偶である。

第五公準(平行線公準)は、次のようなものだった。

一直線が二直線に交わり同じ側の内角の和を二直角より小さくするならば、この二直線は限りなく延長されると二直角より小さい角のある側において交わること

実は両者は同値であることが知られている。つまり、今回の命題を「証明抜きに正しいと認め」れば、第五公準を証明できる。やってみよう。

命題の対偶は「一つの直線が二つの直線に交わるとき、同側内角の和が二直角に等しくなければ、二直線は平行でない」である。平行線の定義から、平行でないならどこかで交わるはずだ。第五公準を示すには、「このとき同側内角の和が二直角より小さい側で交わる」ことを示せばよい。

仮に「二直角より大きい側で交わる」としよう。つまり下図において、二角ΚΗΘΗΘΚの和が二直角より大きいとする。

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ところが、そうだとすると三角形ΚΗΘの内角の和が二直角より大きいことになるが、これは不可能である(命題17)。ゆえに二直角より大きい側では交わらない。したがって二直角より小さい側で交わる。

よって第五公準が成立する。これが証明すべきことであった。

 

同値であるので、第五公準が認められないのなら、今回の命題を公準としてもよい。どちらがより直感的かは、人によって意見が分かれるだろう。もしユークリッド以外の人が『原論』を書いていたら、こちらが第五公準になっていたかもしれない。

 


 

今回の命題は第五公準の(ほぼ)対偶であるが、前回の「同側内角の和が二直角なら二直線は平行」は(ほぼ)裏である。そうなると逆の存在が気になるが、実はそれは命題17「三角形の二角の和は二直角より小さい」である。stoixeia.hatenablog.com

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この図において、二直線をΑΓ、ΒΓとし、そこに一直線ΑΒが交わっていると見做すと、この命題は

一直線が平行でない二直線に交わるならば、この二直線が交わる側の内角の和は二直角より小さい

と言い換えられる。これは確かに第五公準の逆だ。

 

命題17、28、29をうまく使えば、第五公準が証明できそうな気がする。実際、2世紀頃の哲学者プトレマイオスは、そうやって第五公準を証明したらしい(もちろん、命題29を第五公準を使わずに証明してからだ)。しかしそこには循環論法が使われていて、正しい証明ではなかったようだ。

よく知られているように、現在では第五公準は証明不可能なことがわかっている。永久機関の間違いを指摘するように、第五公準の証明の間違いを指摘するのも、知的遊戯として面白いかもしれない。

 

 

*1:公理4「不等なものに等しいものが加えられれば全体は不等である」

*2:命題13「もし直線が直線の上に立てられて二つの角を作るならば、二つの直角か、またはその和が二直角に等しい角を作るであろう」

*3:公準5「一直線が二直線に交わり同じ側の内角の和を二直角より小さくするならば、この二直線は限りなく延長されると二直角より小さい角のある側において交わること」

*4:命題15「もし二直線が互いに交わるならば、対頂角を互いに等しくする」

*5:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」

*6:公理2「等しいものに等しいものが加えられれば、全体は等しい」

*7:命題13「もし直線が直線の上に立てられて二つの角を作るならば、二つの直角か、またはその和が二直角に等しい角を作るであろう」

*8:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」