オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第1巻命題24 二つの三角形の不等な角

もし二つの三角形において、二辺が二辺にそれぞれ等しく、等しい線分によって挟まれる角の一方が他方より大きいならば、底辺も底辺より大きいであろう。 

 

命題19で、三角形の角と辺の大きさの関係を証明した。

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この命題では一つの三角形における角と辺の関係を述べているが、今回は二つの三角形における角と辺の関係である。

 

いま、二つの三角形ΑΒΓとΔΕΖにおいて、ΑΒ=ΔΕ、ΑΓ=ΔΖ、そして角ΒΑΓ>角ΕΔΖとする。

f:id:kigurox:20171213235600p:plain(ΑΒ=ΔΕ、ΑΓ=ΔΖ、角ΒΑΓ角ΕΔΖ

このとき、底辺ΒΓは底辺ΕΖより大きいことを示す。

まず、二つの三角形を重ねよう。線分ΔΕ上に、点Δにおいて角ΒΑΓに等しい角ΕΔΗを作り*1、ΔΗをΑΓ(=ΔΖ)に等しくする*2。そしてΕΗ、ΖΗを結ぼう*3

f:id:kigurox:20171213235508p:plain(ΑΓ=ΔΗ、角ΒΑΓ=角ΕΔΗ)

角ΒΑΓ角ΕΔΖは不等なので、二線分ΔΖとΔΗは重ならない。ゆえにこの作図は可能である)

さて、こうすると二辺ΑΒとΑΓは、二辺ΔΕとΔΗにそれぞれ等しく、それらが挟む角も等しいので、底辺ΒΓとΕΗも等しい*4(※)。

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また、三角形ΔΗΖは二辺ΔΗとΔΖが等しい二等辺三角形なので、角ΔΗΖ角ΔΖΗに等しい*5。よって、角ΕΗΖより角ΔΖΗの方が大きい*6。さらに角ΔΖΗより角ΕΖΗの方が大きいので*7角ΕΗΖより角ΕΖΗの方が大きい。

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最後に、小さい三角形ΕΖΗに注目すると、これは角ΕΗΖより角ΕΖΗの方が大きい三角形であり、命題19から、三角形において大きい角には大きい辺が対するので*8、辺ΕΖより辺ΕΗの方が大きい。そしてΕΗはΒΓに等しかったので、ΕΖよりもΒΓの方が大きいことが示せた。

よって、もし二つの三角形において、二辺が二辺にそれぞれ等しく、等しい線分によって挟まれる角の一方が他方より大きいならば、底辺も底辺より大きいであろう。これが証明すべきことであった。

 

図が細々としてしまったが、証明は追えたであろうか。二つの三角形を重ねると小さい三角形ができるので、その三角形の辺を調べたのだ。

 

証明の文中に(※)をつけた。角ΒΑΓに等しい角ΕΔΗを作図した直後だ。

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これは命題23を使って作図しているわけだが、『原論』ではこのあと、ΒΓとΕΗが等しいことを証明している。

これはなかなか興味深い。

実際に作図してみるとわかるが、角ΒΑΓを点Δ上に移すためには、ΒΓに等しい線分ΕΗを作図しないといけない。
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にもかかわらず、改めてそれらが等しいことを証明しているのは、(命題23の記事でも言及したように)『原論』の作図題が「理論上可能な作図」を示しているのであり、「実際上どうなるか」をあまり考えていないからだと思われる。

そういえば、命題12の記事でも、似たようなことを書いた。

stoixeia.hatenablog.com

直線外から垂線を描く作図だが、『原論』の説明通りに実際に作図してみると、途中で作図が完了してしまう。にもかかわらず、ユークリッドはさらに先まで作図を続ける。

この記事を書いたときは、途中で完了した作図の正しさを証明できなからそうしているのだろうと思ったが、今回のことを合わせて考えてみると、実際的にどうなるかをあまり考えていないからなのかもしれない。

その理由は、「どのような方法で作図してもよい」という考えがあったからかもしれない。つまり、定木やコンパス以外の道具を使い、これまでに証明した作図の方法以外の方法で作図しても確かに成り立つことを示そうとしているのではないだろうか。

例えば当時、「角を移す道具」のようなものがあったとしても、不思議ではない。当時は今のようにコンピュータもなければ方程式もないので、数学の問題(特に図形の問題)を解くために作図が利用されることがあった。そのため、作図の手間を省く冶具が大量に考案されていたとしても不思議ではない。実際、今は使われないような道具がいくつか知られている。したがって、仮に『角を移す道具』で角を移したとしても、ΒΓとΕΗは等しくなることを示す必要があったのではないだろうか。

 


 

今回の証明には、さらに重要な突っ込みどころが存在する。ΑΒがΑΓより大きいときは、下図のようになってしまうのだ。

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証明中に使われた文字のままだと、これでは証明が成立しない。

この場合は二通りの方法で証明できる。一つは、ΔΗとΔΖを延ばす方法だ。

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二等辺三角形の底辺の下側の角は互いに等しいので、角ΚΗΖ角ΗΖΘになる。よって角ΖΗΘ角ΚΗΖ角ΗΖΘ角ΗΖΕが成立し、辺ΖΕ<辺ΕΗ=辺ΒΓが示せる。

もう一つは、文字を入れ替える方法である。ΑΒがΑΓより大きいときは、証明文中のΒとΓをそっくり入れ替えるのだ。それでそのまま成立する。

この解決方法は、命題7でも使っている。ただ、これは私が勝手に書き加えた一文であり、『原論』には書かれていない。

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だが、実はさらにもう一通り、作図されうる。角ΑΒΓ=角ΔΕΖのときだ。

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このときは、二線分ΕΖとΖΗが一直線になってしまうのだ。すると三角形ΕΖΗが作れないので、やはり今回の文章のままでは証明できない。

この場合は、図よりΕΗがΕΖより大きいので、ΒΓもΕΖより大きい、と示すしかないだろう。

 

今回のように複数通りに作図できてしまう場合、これまでならどのように作図しても同じ証明が得られることをちゃんと示していた。例外は、おそらく命題7だけである(見落としていなければ、だが)。

今回の命題24も命題7も、どちらも証明文中の文字を置き換えれば、同じ証明が成立する。ユークリッドは、このような場合は「複数通りに作図できている」とは見なさなかったのかもしれない。

しかしそれでも、一直線になってしまうパターンについては証明が抜けている。このパターンにユークリッドは気付かなかったのだろうか。

ちなみに私も、証明を読んでいるときは全く気付かなかった。この記事を書くために作図ソフトで作図していて、たまたま気付いただけである。

 

 

*1:命題23「与えられた直線上にその上の点において与えられた直線角に等しい直線角を作ること」

*2:命題3「二つの不等な線分が与えられたとき、大きいものから小さいものに等しい線分を切り取ること」

*3:公準1「任意の点から任意の点へ直線をひくこと」

*4:命題4「もし二つの三角形が二辺が二辺にそれぞれ等しく、その等しい二辺に挟まれる角が等しいならば、底辺は底辺に等しく、三角形は三角形に等しく、残りの二角は残りの二角に、すなわち等しい辺が対する角はそれぞれ等しいであろう」

*5:命題5「二等辺三角形の底辺の上にある角は互いに等しく、等しい辺が延長されるとき、底辺の下の角は互いに等しいであろう」

*6:公理8「全体は部分より大きい」

*7:公理8「全体は部分より大きい」

*8:命題19「すべての三角形において、大きい角には大きい辺が対する」