もし直線が直線の上に立てられて二つの角を作るならば、二つの直角か、またはその和が二直角に等しい角を作るであろう。
この命題は、文章だけでは意味がわかりにくい。だが図を見れば一発でわかるだろう。
まず、直線ΓΔがある。
この上に、直線ΑΒを立てる。
このとき、二角ΔΒΑ、ΑΒΓはともに直角か、その和が二直角(直角の二倍)だと言っているのだ。
当たり前である。
だがここで当たり前だと感じるのは、「直線=180°」という常識を知っているからである。しかしこの常識がなぜ正しいかと聞かれたら、すぐに答えられるだろうか?
その答えが、この命題である。これから、この常識を証明しよう。
証明の前に、ひとつだけ注意。現代なら上の図で、
角ΔΒΓ=180°
などと表記することもあるが、『原論』では180°(二直角)の角は、角として認められていない。というのも、角の定義が、
定義8「平面角とは平面上にあって互いに交わりかつ一直線をなすことのない二つの線の相互の傾きである」
だったからだ。そしてこのせいで、回りくどい証明をするはめになる。
では証明しよう。二つの角ΔΒΑとΑΒΓが等しい場合と等しくない場合に、場合分けして考える。
まず二つが等しい場合、直角の定義から、これらは二つの直角である*1。よって等しい場合は、たしかに命題は正しい。
次に、二つが等しくない場合を考えよう。
補助線として、点Βから直線ΔΓに垂線ΒΕを引く*2。
すると、角ΓΒΕと角ΕΒΔは、ともに直角である。示したいのは、角ΓΒΑと角ΑΒΔの和が二直角に等しいことだ。
証明は3ステップに分けて行われる。
第1ステップ。
角ΓΒΕは、角ΓΒΑと角ΑΒΕの和に等しい。
双方に角ΕΒΔを加えると、角ΓΒΕと角ΕΒΔの和は、三角ΓΒΑ、ΑΒΕ、ΕΒΔの和に等しい*3。
第2ステップ。
角ΑΒΔは、角ΑΒΕと角ΕΒΔの和に等しい。
双方に角ΓΒΑを加えると、角ΓΒΑと角ΑΒΔの和は、三角ΓΒΑ、ΑΒΕ、ΕΒΔの和に等しい*4。
第3ステップ。
以上から、角ΓΒΕと角ΕΒΔの和と、角ΓΒΑと角ΑΒΔの和は、ともに三角ΓΒΑ、ΑΒΕ、ΕΒΔの和に等しい。
よって、角ΓΒΕと角ΕΒΔの和と、角ΓΒΑと角ΑΒΔの和も等しい*5。
ところで、角ΓΒΕと角ΕΒΔは二つの直角であった。ゆえに角ΓΒΑと角ΑΒΔの和は二直角に等しい。
これで、二角ΓΒΑとΑΒΔが等しくない場合も、命題が正しいことが示せた。
よって、もし直線が直線の上に立てられて二つの角を作るならば、二つの直角か、またはその和が二直角に等しい角を作るであろう。これが証明すべきことであった。
数式で書けば、少しはわかりやすいだろうか?
第1ステップ。
角ΓΒΕ=角ΓΒΑ+角ΑΒΕ
∴角ΓΒΕ+角ΕΒΔ=角ΓΒΑ+角ΑΒΕ+角ΕΒΔ
第2ステップ。
角ΑΒΔ=角ΑΒΕ+角ΕΒΔ
∴角ΓΒΑ+角ΑΒΔ=角ΓΒΑ+角ΑΒΕ+角ΕΒΔ
第3ステップ。
以上から、
角ΓΒΕ+角ΕΒΔ
=角ΓΒΑ+角ΑΒΕ+角ΕΒΔ
=角ΓΒΑ+角ΑΒΔ
ところで、
角ΓΒΕ+角ΕΒΔ=二直角
よって、角ΓΒΑ+角ΑΒΔ=二直角
このような回りくどい証明になっている理由は、二直角を角として認めていないからである。ΓΒΕとΕΒΔが二直角であり、ΓΒΑとΑΒΔはそれに重なり合っているから等しい角である、という論法が使えないのだ。二直角は角ではないから。
それにしたって、もっと短い証明がありそうな気もする。何かうまい方法はないだろうか?