オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第1巻命題5 二等辺三角形の底角は等しい

二等辺三角形の底辺の上にある角は互いに等しく、等しい辺が延長されるとき、底辺の下の角は互いに等しいであろう。 

 

そういえば、「底辺」という単語は前回*1も登場したが、この言葉は定義なしで使われている。ユークリッドもうっかりしていたのだろう。

さて、前回は三角形の合同条件(二辺夾角相等)だったから、今回は他の合同条件かと思いきや、全然違う話である。それらはもう少しあとになって登場する。現代の中学校では、三角形の合同条件は三つセットで教わるが、『原論』ではそうなっていないのだ。

では中身を見ていこう。ただし、やたらと複雑な証明なので、注意して読んでほしい。

ΑΒ=ΑΓなる二等辺三角形ΑΒΓがあり、ΑΒ、ΑΓが延長されたとする*2。このとき、角ΑΒΓ=角ΑΓΒ、角ΓΒΔ=角ΒΓΕであることを証明する。

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まずは補助線が必要である。半直線ΒΔ上に適当な点Ζを取り、ΑΖ=ΑΗとなる点Ηを半直線ΑΕ上に取る。これは、ΑΕから、ΑΖに等しい線分ΑΗを切り取ることで成される*3。そして線分ΖΓ、ΗΒを結ぶ*4

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さてここで、二つの三角形ΑΒΗとΑΓΖに注目する。

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この二つは合同である。なぜなら、ΑΒ=ΑΓ、ΑΗ=ΑΖであり、これらは共通の角ΔΑΕを挟むので、二辺が二辺にそれぞれ等しく、その等しい二辺に挟まれる角が等しいからだ*5

よって、辺ΗΒ=辺ΖΓ、角ΑΗΒ=角ΑΖΓ、角ΑΒΗ=角ΑΓΖが成立する。

さて次は、下にできた二つの三角形ΒΖΓとΓΗΒに注目する。

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ここで、辺ΒΖ=辺ΓΗである。なぜなら、ΑΖ=ΑΗであり、しかもΑΒ=ΑΓなので、等しいものから等しいものを引いた残りであるΒΖとΓΗも等しいからだ*6

さらに、辺ΖΓ=辺ΗΒ、角ΑΖΓ=角ΑΗΒであることも先に証明したので、この二つの三角形も、二辺が二辺にそれぞれ等しく、その等しい二辺に挟まれる角が等しい。ゆえに合同である*7

よって、角ΖΒΓ=角ΗΓΒであることが示せた。すなわち、底辺の下の角が互いに等しいことが示せた。

次に底辺の上の角も互いに等しいことを示す。

一組目の合同な三角形のペアから、角ΑΒΗ=角ΑΓΖであることがわかる。また、二組目の三角形のペアから、角ΓΒΗ=角ΒΓΖであることもわかる。

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よって、等しいものから等しいものを引いた残りの角ΑΒΓと角ΑΓΒも等しい*8。しかもこれらは底辺の上にある。

よって二等辺三角形の底辺の上にある角は互いに等しく、等しい辺が延長されるとき、底辺の下の角は互いに等しいであろう。これが証明すべきことであった。

 

……ややこしい!

どうしてこんなにややこしいのか。その理由は、『原論』が「これまで証明した事柄」だけを使って証明しようとしており、しかもこれまでに証明した合同条件が二辺夾角相等しかないためだ。

現代の日本の中学校では、この定理は次のように証明している。

二等辺三角形ΑΒΓの底辺ΒΓの中点をΔとし、ΑとΔを結ぶ。

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二つの三角形ΑΒΔとΑΓΔに注目すると、ΑΒ=ΑΓ、ΒΔ=ΓΔ、ΑΔ=ΑΔなので、これらは三辺がそれぞれ等しい。よって合同である。ゆえに角ΑΒΔ=角ΑΓΔである。これが証明すべきことであった。

 これだけである。三行で済む。
しかもこれは、同じ補助線で角ΑΔΒが直角であることや、ΑΔが角Αの二等分線になっていることも示せる優れた証明方法である。

ただしこの証明には、二つ問題がある。
中点の作図方法と、三辺がそれぞれ等しければ合同という定理が、まだ示されていないことだ。そしてこのどちらの証明にも、『原論』では間接的に「二等辺三角形の底角は等しい」を使っている。つまりこの証明は、そのままでは循環論法に陥る。

中学の教科書*9ではどうしているのか、見てみよう。

 

まずは、中点の作図方法を見よう。線分ΑΒの中点Εは、中心Α、半径ΑΒの円と、中心Β、半径ΒΑの円の交点をΓ、Δとするとき、線分ΑΒと線分ΓΔの交点として求められる。

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これで作図できる理由は、四角形ΑΔΒΓの四辺が等しいことから菱形になり(このことは円の定義と菱形の定義から証明できる)、菱形は線対称な図形であるからだ。

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線対称だとなぜ中点になるのか。
菱形ΑΔΒΓにおいて、対称の軸をΓΔとしよう。すると点Αに対応する点はΒだ。線対称な図形において、対応する点同士を結んだ線分は、対称の軸と中点で交わることが示せるので、ΕはΑΒの中点なのだ。

この定理は以下のようにして示せる。

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たとえば線対称な六角形ΑΒΓΔΕΖがあるとしよう。対称の軸はΑΔである。このとき、対応する点同士であるΒとΖを結び、対称の軸ΑΔとの交点をΗとする。

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線対称な図形とは、「対称の軸で折りたたんだとき、ぴったりと重なり合う図形」のことである。つまりこの六角形において、対称の軸で折りたたむと、点Βは点Ζに重なる。そして点Ηは共通なので、線分ΒΗと線分ΖΗもまた重なるはずである。なぜなら、重ならないとすると二線分が面積を囲むことになるが、これはあり得ないからである(公理9)。したがって、互いに重なり合うものは互いに等しい(公理7)ので、線分ΒΗとΖΗは等しい。ゆえに点Ηは線分ΒΖの中点である。

いまは六角形で説明したが、どんな線対称な図形でも同様に証明できることがわかるだろう。ゆえに対応する点同士を結んだ線分は、対称の軸と中点で交わる。これが証明すべきことであった。

 

続いて「三辺がそれぞれ等しければ合同」を証明しよう。教科書ではこれは、「三辺が与えられると、三角形は一通りにしか作図できない」と示すことで証明している。

たとえば三線分ΑΒ、Γ、Δが与えられたとする。これを三辺とする三角形を作図したい。

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このとき、中心Α、半径Γの円と、中心Β、半径Δの円を描き(命題2)、その交点をΕとすると、三角形が作れる。

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「下側にもう一個作れる」「左右を反転させたものも作れる」という点を除けば、たしかに三角形はこれしか作図できない。二円の交点は最大二つしかないからだ*10*11

さらに教科書では、「三辺の分かっている三角形が与えられ、それをコピーする」という体で説明しているので、左右反転は考慮しなくてよい。線分の両端が他の線分のどこに接するのかが指定されるからだ。

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つまり、「下側にもう一個作れる」という点にさえ目を瞑れば、たしかに「三辺を与えられると、三角形は一通りしか作図できない」と言える。そして一通りしか作図できないということは、三辺を与えられた三角形はすべて同じ形ということだ。これが証明すべきことであった。

 

以上から「中点の作図」と「三辺が等しければ合同」が証明できたので、無事に「二等辺三角形の底角は等しい」が証明できる。しかも、『原論』よりはるかに簡単な方法で!

『原論』でこの証明方法を採用していない理由は二つある。

ひとつは、「対称」という概念を用いていないこと。もうひとつは、「等しい」ということを「互いに重なり合う」と定義してしまっていること。「一通りしか作図できないからすべて等しい」という論理が使えないのだ。

 

『原論』の論理は、以前の記事で紹介した「定義」「公準と公理」を出発点に組み立てられている。
中学の教科書も基本的に同じ出発点だが、ここにさらに、「線対称な図形とは、図形をある線分で折りたたんだとき、その両側がぴったりと重なる図形である」という定義と、「一通りにしか作図できない図形はすべて等しい」という公準を付け加えている。

どちらが優れているかと聞かれると、前提の少ない『原論』のような気もするし、わかりやすい中学の教科書のような気もする。人によって意見が分かれるところだろう。

 

*1:
stoixeia.hatenablog.com

*2:公準2「有限直線を連続して一直線に延長すること」

*3:命題3「二つの不等な線分が与えられたとき、大きいものから小さいものに等しい線分を切り取ること」

*4:公準1「任意の点から任意の点へ直線を引くこと」

*5:命題4「もし二つの三角形が二辺が二辺にそれぞれ等しく、その等しい二辺に挟まれる角が等しいならば、底辺は底辺に等しく、三角形は三角形に等しく、残りの二角は残りの二角に、すなわち等しい辺が対する角はそれぞれ等しいであろう」

*6:公理3「等しいものから等しいものが引かれれば、残りは等しい」

*7:命題4「もし二つの三角形が二辺が二辺にそれぞれ等しく、その等しい二辺に挟まれる角が等しいならば、底辺は底辺に等しく、三角形は三角形に等しく、残りの二角は残りの二角に、すなわち等しい辺が対する角はそれぞれ等しいであろう」

*8:公理3「等しいものから等しいものが引かれれば、残りは等しい」

*9:数研出版『四訂版 6ヵ年教育をサポートする 体系数学1 幾何編』

*10:ちなみにこの作図方法は、『原論』第1巻命題22に登場する。

*11:厳密に言えば、二円が最大二点でしか交わらないことを証明する必要がある。『原論』の第3巻にその証明があるが、その証明は間接的に「三辺が等しい三角形は合同」という定理を使う。つまり『原論』の証明をそのまま使うと、循環論法に陥る。