オペレヴィ・ヴィクセ

ユークリッドの『原論』を少しずつ読んでいくブログです。タイトルは「Q.E.D.」の元になったギリシャ語の「όπερ έδει δείξαι.」。

第1巻命題2 長さ(線分)の移動

与えられた点において与えられた線分に等しい線分を作ること。 

 

我々が普段作図するとき、コンパスをある線分の長さに開き、それを保ったまま別の場所に移動させて円を描く、という操作をすることがある。

ところが、『原論』で許されているコンパスの操作は、公準3「任意の点と距離(半径)をもって円を描くこと」だけである。

コンパスで長さを移すことはできないのだ。

「そんな条件で作図できるのか?」と思ってしまうが、できることを保証するのがこの命題だ。

この命題は、以下の図において、線分ΒΓと同じ長さの線分を、点Αから作図できると主張している。

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方法はやや込み入っている。

まず二点Α、Βを結び*1、その上に等辺三角形ΑΒΔを作図する*2

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次に二線分ΔΑ, ΔΒを延長し、二直線ΔΕ, ΔΖを描く*3

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そしたら、中心Β、半径ΒΓの円を描き*4、直線ΔΖとの交点をΗとする。

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最後に、中心Δ、半径ΔΗの円を描き*5、直線ΔΕとの交点をΛとする。

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このとき、線分ΑΛが求める線分である。ΒΓ=ΑΛとなっているのだ。あとは中心Α、半径ΑΛの円を描いてやれば、点Αから任意の方向にΒΓと等しい線分を引くことができる。

本当にこんな方法で作図できているのだろうか。なんとも不思議だが、確かにできていることが簡単に証明できる。

点Βは円ΓΗθの中心なので、ΒΓとΒΗは等しい*6。また点Δは円ΗΛΚの中心なので、ΔΗとΔΛも等しい*7。さらに三角形ΑΒΔは等辺三角形なので、ΔΑとΔΒは等しい。

さて、ΔΗとΔΛは等しいので、そこから等しいΔΒとΔΑを除いたΒΗとΑΛも等しい*8。さらに、ΒΗはΒΓと等しいことは先に示したので、ΑΛはΒΓとも等しい*9

よって与えられた点Αにおいて与えられた線分ΒΓに等しい線分ΑΛが作られている。これが作図すべきものであった。

 

要は、以下のような証明だ。

ΔΗ=ΔΒ+ΒΗ=ΔΒ+ΒΓ
ΔΛ=ΔΑ+ΑΛ=ΔΒ+ΑΛ
ここで、ΔΗ=ΔΛ
ゆえに、ΒΓ=ΑΛ

よくこんな方法を思いついたものである。誰でも、とりあえず正三角形を描いてみようとは思うだろうが、その次の操作を思いつけるだろうか。昔の人は偉大だ。

かくして、与えられた線分を任意の場所へ移動させることが可能になった。我々はコンパスを閉じずに紙から持ち上げられるようになったのだ。

言うまでもなく、実際に作図するときにいちいちこんなことをしていたら面倒である。きっとユークリッドも、コンパスを持ち上げて線分を移していただろう。

この命題は、そのような操作が可能であることを保証してくれている。今後はコンパスを持ち上げるたびに、この命題のことを少しでもいいから思い出してあげよう。彼(彼女?)のおかげで、我々は今日も線分を移せるのだ。

 

*1:公準1「任意の点から任意の点へ直線を引くこと」

*2:命題1「与えられた有限な直線の上に等辺三角形を作ること」

*3:公準2「有限直線を連続して一直線に延長すること」

*4:公準3「任意の点と距離とをもって円を描くこと

*5:公準3「任意の点と距離とをもって円を描くこと

*6:定義15「円とは…内部にある一点からそれへ引かれたすべての線分が互いに等しい」定義16「この点は円の中心と呼ばれる」

*7:定義15「円とは…内部にある一点からそれへ引かれたすべての線分が互いに等しい」定義16「この点は円の中心と呼ばれる」

*8:公理3「等しいものから等しいものが引かれれば、残りは等しい」

*9:公理1「同じものに等しいものはまた互いに等しい」